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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
1984/2601

千九百八十四 玲緒奈編 「痛くないように」

十二月二日。木曜日。晴れ。




「あさがおの、あ。いぬの、い。うしの、う。えびの、え。おにぎりの、お」


今日も、絵里奈が玲緒奈れおなを相手にあのカードを見せ始めた。


「かにの、か。きのこの、き。くらげの、く。ケーキの、け。こうもりの、こ」


そこまで言ってもまだ玲緒奈はじっと見つめてる。


「さるの、さ。しまうまの、し。すいかの、す。せみの、せ。そらの、そ」


さらに、


「たこの、た。ちずの、ち。つみきの、つ。てぶくろの、て。とんぼの、と」


とまで言ったところで、玲緒奈は顔を逸らして床に置かれたカードをいじり出した。それを右に左にと滑らせて放りながら、クラゲのカードを見付けると、


「ちゃーっ!。ぶるっぷ!。ちゃーっ!。どるるるる!」


クラゲの絵をバシバシと叩きつつ沙奈子のことを語り出したみたいだ。だから僕と絵里奈が、


「沙奈子お姉ちゃん?」


「そうだね。沙奈子お姉ちゃん、クラゲさんも好きだね」


と話し掛けると、


「ぶべ!」


何か納得がいったのか、手を挙げて一声発して、


「ぶー……」


クラゲの絵を撫でてそれを手に取って自分の正面に掲げて、


「ぶーあ、ちゃー、ぶーあ、くー」


とか呟いて、ぽい、と放り出した。でも僕と絵里奈は聞き逃さなかった。


「今、『くー』って言ったよね?」


「ええ、言いましたよね」


これまで、はっきりとした『く』という発声をしなかった玲緒奈が確かに『くー』と言ったことに、僕たちは笑顔になってしまった。


うん。この子はちゃんと成長してる。ちゃんと僕たちが口にしてることを聞き取ってる。それを少しずつ自分のものにしてる。そして同時に、僕たちの振る舞いも見てるんだって実感した。


まだ、上手く加減はできないけど、乱暴なことをしてるように見えても、攻撃的なそれじゃなくなってきてるんだ。何かを叩く時も、自分の手が痛くならないように手加減をしてきてる。だからそれで泣くことがなくなってきた。僕に不満とかを表す時も、『叩く』んじゃなくて『押す』感じになってきてるんだ。


この子はちゃんと『痛み』を理解して、『痛くないように』できてきてる気がするんだよ。


それでいい。それでいいんだ。ゆっくりと時間をかけて、少しずつ確実に理解していってくれたらいい。急ぐ必要はない。焦る必要もない。玲緒奈のペースで学んでいってくれたらいい。僕は、僕たちは、それに付き合うよ。玲緒奈がこの世界を理解していく手順に付き合う。


だって僕と絵里奈はそのために親になったんだ。玲緒奈がこの世界を楽しめるようになってほしくて、親になったんだよ。


ありがとう、玲緒奈。僕たちのところに来てくれて。



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