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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百九十八 玲那編 「養子縁組」

月曜日。今日から絵里奈と玲那は向こうの部屋に戻ることになった。さすがにいつまでも留守にしておくわけにはいかないからね。


ちなみに、絵里奈はいつも通り志緒里を迎えにいったん帰るけど、玲那は『兵長』を連れて出勤するらしい。人形に対する姿勢の違いが表れてる感じでちょっと面白いと思ってしまった。


あと、明日、僕は沙奈子の学校の個人懇談があって有休を取ってる。絵里奈も行きたいと思ってたらしいのが、年末に向けて何かと人手が足りないということで、有給が取れなかったらしかった。その辺はまあ、僕と知り合う前にちょっとまとめて有休を取ったことで言い出しにくい雰囲気もあったみたいだ。だから、個人懇談とかは次の機会ということかな。


今週は、金曜日が祝日だから木曜日に絵里奈と玲那も帰ってくる。それから後は沙奈子が冬休みに入る。いよいよ年末が近付いてるって感じになってきた気がする。


ただ心残りと言えば、玲那との養子縁組だ。あれからいろいろ調べてはみたんだけど、どうもよく分からなかった。ネットで調べた限りだと何だか簡単にできそうな気もするものの、そんな簡単にやってしまっていいものかどうかが分からない。だから明日、役所に行くついでに相談してこようかと思う。絵里奈とはまるで勢いみたいな形で結婚してしまったのに、今のままじゃ玲那だけが他人ってことになってしまう。早くちゃんとしてあげたい。


そして火曜日。今日は僕が沙奈子を見送った。


「行ってらっしゃい」


そう言って僕が額にキスをすると、「いってきます」と頬にキスを返してくれた。この習慣も、完全に元通りになってた。


「沙奈子が帰ってきてから学校に行くことになるから、もしよかったら一緒に行く?」


と聞いたら、「うん」と大きく頷いてくれた。ふわっと笑顔も浮かべてくれた。改めて元通りになったんだって実感した。


沙奈子を送り出してから、家でもできる分の仕事をした。少しでもやっておけば、今日の遅れを取り戻すのも楽になるかもと思ってやってみるんだけど、やっぱり会社でやるみたいにはスムーズにいかなかった。もたもたしてる間に9時が過ぎて、僕は役所に行くことにした。


役所の福祉課で、児童扶養手当の停止の手続きをした。一応、今月分までは支給されるということだった。来月分以降から停止されるらしい。児童手当の方は、うちはまだ支給対象らしいからそのままにしておく。それにしても、『児童扶養手当』とか『児童手当』とか、名前が似てて紛らわしいなと改めて思った。


それから相談窓口で、養子縁組について相談してみた。そうしたら、何だかやり方が婚姻手続きとそんなに違わない気がした。書類を渡され、必要なことを記入して提出されればそれでOKだって言われた。養子になる人がすでに成人してる場合は、当人同士の合意さえあればできるとも言われた。


用紙を見ると養親になる人の氏名を書く欄とか養子になる人の氏名を書く欄とかがもちろんあって、しかも証人が二人いるという点でも、婚姻届けに似てる気がした。


それで気付いた。ああそうか、法律上で家族になるという意味では、結婚と養子縁組って同じようなことなんだ。だから、養子縁組も、養子になる人が成人してる場合は、本人同士の合意さえあればそれでいいんだってことなのか。


なんだ。それが分かってればもっと早くそうすればよかった。なんだかすごく特別なことをするような気がしてたけど、そういうことだったんだな。


ただ、改めて説明されたけど、養子になる人が未成年の場合は、家庭裁判所とかで審査を受けないといけないらしい。つまり、僕が沙奈子を養子にする場合はってことだ。そうだ。沙奈子を養子にすると考えた時にちょっと調べて家庭裁判所での審査が必要だってことが分かったから、それで何かとても大変なことなんだっていう思い込みができてしまったのかもしれない。とは言え、未成年の子を養子にする場合も、例えば親が再婚するとかで、再婚相手と子供との間で養子縁組をする場合は、基本的には家庭裁判所の審査は受けなくていいらしいっていうのも分かった。だけどそれも、僕と沙奈子の場合は当てはまらないからなあ。


それに、現状、沙奈子との間に親子関係はなくても、彼女はちゃんと僕の扶養家族ってことになってるから、絵里奈や玲那の場合と違って事実上の親子で通るし。


ああ、そうそう、それで思い出したけど、来支間きしまさんに『いつからの付き合いなのか』みたいなことを聞かれた絵里奈が『一ヶ月ちょっと』って言ったのは、沙奈子の運動会を一緒に見て、沙奈子の家族になるってことを決意した時からっていう意味だったらしい。咄嗟にちょっとでも長く言おうとしたみたいだ。結果的には歯牙にもかけられなかったけどさ。


普段はそういうのほとんど気にしてなくても、もし問題が起こった時には、法律上できちんと身分が保証されてるっていうのは強いんだなっていうのを実感させられた。事実婚とかいうのを貫くのは大変だろうなってつくづく思った。正直言って、僕には無理そうだ。だったら形だけでも法律婚にした方が楽だって思ってしまった。


もちろん、絵里奈との結婚が形だけのものっていう意味じゃない。彼女とちゃんと結婚という形を取れたのは、僕にとっても意義のあることだ。何しろ、僕は最近、絵里奈に対して恋をしてるみたいだし…。


彼女と見詰め合うと、胸がドキドキするんだ。それで沙奈子がすっかり元通りになった頃から玲那にからかわれるようになった。『ひゅーひゅー、お熱いね~』って感じで。その一方で、沙奈子や玲那に対しては以前と何も変わらない感じだった。と言うことはやっぱり、絵里奈が僕にとっては恋愛的な意味で特別な女性ってことになるんだろうな。


まさか、結婚してから恋をすることになるとか思わなかった。


家に帰って改めて養子縁組の用紙を見る。僕と玲那、絵里奈と玲那っていう形で両方と養子縁組をすれば、もう完璧に家族ってことになる。誰にも文句は言わせない。


ただ、こうやって年齢がそんなに離れてない者同士で養子縁組とかしたら、変な勘繰りをする人も出てきそうかなというのも頭をよぎってしまったりした。だけどそれ以上に、ちゃんとしたい。ちゃんと家族になりたい。玲那だけ他人とか、やっぱり嫌だ。あの子はもう、僕の娘なんだから。


そうだ。玲那も僕の娘だ。年齢は3歳しか離れてなくても、あの子は僕の娘なんだ。それをちゃんと法律の上でも確かなものにしてあげたい。それだけなんだ。


今でも玲那は、僕と絵里奈に対してヤキモチを妬いてしまうらしい。ただそれも、暗い感情を呼び覚まされるようなものじゃないみたいだった。玲那自身、『親が再婚する娘の心境かな』みたいなことを言ったりもしてた。祝福はしたいけど、でもやっぱり心境としては複雑って感じなのかな。そう言った時の玲那の表情がまた、子供みたいに見えたりもした。


まったく、沙奈子の方がよっぽどしっかりしてるよな。


とか、子供っぽい表情をする玲那を思い浮かべて頬を緩ませながら、僕はそんなことを思ったのだった。


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