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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
1975/2601

千九百七十五 玲緒奈編 「最初はこんなものだって」

十一月二十三日。火曜日。晴れ。




今日は勤労感謝の日。とは言っても、僕達の間じゃ『感謝』も『労わり』も常日頃からちゃんと形に表そうとしてるから、何らかの記念日とか祭日とかってことでその火だけ特別なことをするっていうのはなかった。誕生日とかクリスマスとかお正月くらいかな。


だから今日も、いつもと変わらずに過ごす。


「ぼーへ!、ぼーへ!、うばあああ!」


何やらご機嫌でガラガラを振りかざし歌ってる玲緒奈に対して絵里奈が、


「はーい!。玲緒奈~♡」


声を掛けて自分の方を向かせた。その手には、何枚ものカード。一辺三十センチくらいの正方形のカードだった。


それを掲げて、


「あさがおの、あ。いぬの、い。うしの、う。えびの、え。おにぎりの、お」


って言いだしたんだ。カードをめくりながら。そのカードは、表には絵が、裏には絵に対応したひらがなが描かれたものだった。絵里奈は絵を見せた後、裏返してひらがなを見せ、そして次のカードを見せてっていう形で玲緒奈に示しだした。


山仁やまひとさんの奥さんが、イチコさんや大希ひろきくんが小さい頃に使ってたっていう、『幼児教育』の教材だった。それをイチコさんが山仁さんから預かってきて、届けてくれたんだ。


だけど玲緒奈は、最初はキョトンとした様子で見てたんだけど、絵里奈が床に置いたカードを手に取って、


「うばーっ!、ぶあ!。うぶるるぶ。ばべ!」


振りかざし床に叩きつけ、そこに描かれた絵を撫でながら、何か講釈を垂れだした。


「あ~、ちょっと、玲緒奈……!」


その様子に絵里奈が慌てた様子で。でも僕は、その教材を譲り受ける際に聞かされてた、


「あくまで子供の気を引いて、集中力が続いてる時だけにしてください。無理にやらせないように。あと、もうどうせイチコも大希も無茶苦茶して痛んでますから、何されたって気にしなくていいですよ」


っていう話に従って、


「まあまあ、今日のところはそれでいいと思うよ」


と絵里奈をなだめた。山仁さん曰く、


「これは、教材を使ってる方はついつい『ちゃんとやらないと』って考えてしまいがちなので、ブレーキを掛けてくれる人が傍にいてくれるといいと思います」


とのことだったから、僕がそのブレーキ役をと思ったんだ。逆に、僕がやるとしたらその時には絵里奈がブレーキ役になる。


子供に興味を持たせるのが肝心で、嫌がってる時に強制すると逆効果らしい。だから遊びだしてしまった今日は、これでもう終わり。


「最初はこんなものだって山仁さんも言ってたしね」


「そうですね。私の母親も私が小さかった時に同じようなものを使ったらしいですけど、私が泣いて嫌がってるのに無理やりやらせようとしてたそうです」


とのことだった。



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