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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百九十七 玲那編 「おねしょ」

莉奈の服作りについては、怪我のこともあって当然休むことになった。その代わり沙奈子は、莉奈と果奈を常に抱いてた。僕が沙奈子を膝に座らせてるのと同じように莉奈を自分の膝に座らせて、莉奈の膝の上に果奈を座らせてた。ちょっと、『親亀の上に子亀、子亀の上に孫亀』っていうのを連想してしまった。その上でパズルをしてた。


「沙奈子ちゃん、新しいパズル欲しい?」


絵里奈にそう聞かれて沙奈子は黙って頷いてた。その反応も、僕にとっては大切な情報だった。そういうことを必要以上に遠慮しない段階なんだっていうのが確認できた。僕たちに対する信頼とかは失われてないんだっていうのを感じた。だとしたら、また笑えるようになるまではそんなに時間はかからないかも知れない。それだけでもホッとできた。


僕は物件のチェックをして、絵里奈と玲那は沙奈子を見守って、静かに時間は過ぎて行った。10時前になって沙奈子があくびをし始めたら布団を敷いて、またみんなで固まって寝た。おやすみなさいのキスはやっぱりなかった。


火曜日の朝。絵里奈の朝食の匂いで目が覚めて、僕も用意を手伝った。みんなで穏やかに淡々と朝の用意を済ませて、沙奈子に「行ってきます」と声を掛けて三人で家を出た。


僕と絵里奈はバスで、玲那は3代目黒龍号で、会社に向かった。仕事も淡々とこなす。こういう時、変に人間関係が濃密な職場じゃないことは逆にありがたかった。無駄に関わられたりするとかえってストレスになりそうだったし。


昼休みに社員食堂で集まってお互いを励まし合って、昼からの仕事も淡々とこなした。


そう言えば、絵里奈と結婚したことは話した方がいいのかな。だけどそういうプライベートについて話をするような関係でもないし、話しても意味がない気がする。まあいいか。わざわざ話さなくても。


残業も終わって家に帰ると、三人で「おかえりなさい」と迎えてくれた。絵里奈と目が合うと、やっぱりちょっと胸が高鳴るのを感じた。何だかお互い顔が赤くなってしまって照れ臭くなって、そんな僕たちの様子を玲那はじと~っとした目で見てた。まだ少しヤキモチを妬いてしまうんだと思った。


沙奈子は一人でお留守番をしてた頃と同じように宿題は学校から帰ってすぐに終わらせてるみたいだし、絵里奈と玲那が病院につれて行ってくれてた。傷の回復自体は順調だってことだった。


夕食は冷凍のお惣菜を使ってそれに絵里奈が一工夫加えて食べたって言ってた。そういういろいろも絵里奈と玲那がいてくれるからすごく安心できた。


沙奈子が眠くなるまで、玲那が会社の帰りに本屋に寄って買ってくれた新しいパズルをして、10時前にはみんなで寝たのだった。


水曜日。沙奈子の様子には大きな変化も見られず、やっぱり淡々と用意を済まし、仕事に行った。そして仕事も淡々と済まして家に帰ると、何やらテレビの辺りに見慣れない機械が増えてた。HDDレコーダーとかだった。


「ごめんお父さん、向こうの部屋でアニメをチェックするのが大変だからこっちで視聴環境整えさせてもらっちゃった」


だって。まあ、別にいいけどね。でも沙奈子はあまり興味が無いみたいだったから、玲那は自分用のポータブルTVを使ってヘッドホンを使って視てた。絵里奈は沙奈子がパズルで遊ぶのを見守ってた。


木曜日。沙奈子には特に変化なし。仕事が終わって帰ってくると、塚崎つかざきさんが訪ねてきたっていうことだった。だけどその時、来支間きしまさんが体調不良を理由に休職してて、謝罪に来られないと話してたそうだ。別に顔も見たくないっていうのは正直なところだからかえってありがたい気がした。


金曜日。やっぱり沙奈子の様子はそのままだった。ただ、僕たちの顔をちゃんと見てくれてるから、そんなに心配はしていない。学校でも特に変わった様子はないと、水谷先生から電話があった。大希ひろきくんと千早ちはやちゃんがすごく気を遣ってくれてるらしかった。本当にありがたい。


また絵里奈と玲那が病院につれて行ってくれて傷の経過を見てもらって包帯も替えてもらってた。傷口はほぼ塞がったっていうことだった。ただ、やっぱり傷痕は残りそうって言われたらしい。それは仕方ないか。


だけど、二人がいてくれて本当に助かった。僕が仕事から帰ってからは、今日は本を読んでた。玲那はやっぱりアニメを視てて、絵里奈は洗濯物を畳んだりアイロンを掛けたりしてた。その様子がまた家族っぽくて何だかいいなって思った。


あと、この一週間、沙奈子はおねしょをしなかった。それがいいことなのかどうなのか、僕には分からない。もう、おねしょをすること自体が日常の一部になってたから、それが無いっていうのが逆に心配になったりもする。でも、沙奈子の様子を見てる限りは、大丈夫そうかなって思うけど…。


と思ったら、土曜日の朝、沙奈子がまたおねしょをした。


「ごめんなさい…」


僕と絵里奈が朝食の用意をしてる時、おねしょで濡れたおむつを持ったまま、沙奈子が上目遣いな感じでそう言った。けれど僕はそれが嬉しかった。以前の彼女が戻ってきてくれた気がした。ちょっとだけ表情も戻ってきた気もする。だから思わず沙奈子を抱き締めていた。


「いいよいいよ、気にしないで。沙奈子が元気でいられたらそれだけでいいから…」


そう言った僕を、沙奈子がきゅっと抱き締めてくれた。それは、この子がこの部屋に来てから始めて僕を抱き締めてくれた時のことを思い出させた。あの時は僕と二人きりだったけど、今は四人だ。これからまた、新しい毎日が続いていくんだ。


抱き合う僕と沙奈子を、絵里奈が泣きながら抱き締めてくれた。その上からさらに、起きてきた玲那が抱き締めてくれた。


そうさ。僕たちの生活はまだ始まったばかりなんだ。これからも辛いことがあったりするかもしれなくても、みんなで乗り越えていけばいい。


その日を境に、沙奈子はみるみる表情を取り戻していった。ぽつりぽつりという感じだったけど自分から喋るようにもなってくれて、一週間の間にはすっかり元通りになってくれてた。それは、沙奈子がここに来てからの様子を改めて見てるようにも思えた。


包帯も取れて、左手も普通に使えるようになった。まだ何度か診察を受けないといけないし、吊ってる間に少し細くなってしまった気もするけど、このくらいならすぐに戻るんじゃないかな。ただやっぱり、傷痕は残ってしまった感じだった。それでも時間が経てば今よりは目立たなくなるとは言われてた。


次の土曜日はクリスマスイブ。実は大希くんのところでもクリスマスパーティーをするからとお誘いも受けた。だけど今回は僕たちだけでゆっくりパーティーがしたいということで、沙奈子が学校で自分で「ごめんなさい」って言ったらしい。


ちゃんと自分でそういうことを言えるようになってくれたのが分かって、僕はまた胸がいっぱいになるのを感じたのだった。


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