千九百六十一 玲緒奈編 「具体的なことは何も言えない」
十一月九日。火曜日。雨のち曇り。
十一月に入って、沙奈子の中学生生活も残り半年を切った。細かい部分を見れば必ずしも穏やかなだけじゃなかったのは確かだと思う。『埴輪』とか『ロボちゃん』とか陰で言われてるのは、あくまで表立ってあからさまに言ってこないというだけで。
だけどそれも、学校がしっかりと対処してくれてるからっていうのがあると感じるんだ。本当に感謝しかない。
だからこそ、『イジメ自殺』と言われるようなことが起こるまで見て見ぬふりをする学校があるというのが本当に残念で仕方ない。なのに、ひとたび事件化すると、
『できることはしていた』
みたいに、それこそ判を押したような決まりきった返答ばかり。何をもって『できることはしていた』のかが、まったく分からない。現に沙奈子が通ってた小学校や今通ってる中学校は、『イジメの疑い案件』の段階で早々に対処してくれるよ?。同じように『大人』が運営している学校でなぜ同じことができないの?。
おかしいよね?。
『全部の会社が同じように業績をあげられたら苦労しない!!』
と言うかもしれないけど、『それぞれ努力はしている』と言うかもしれないけど、じゃあやっぱり、
『努力は必ず報われるわけじゃない』
っていう何よりの証拠だと思うんだけどな。本当に『努力していた』のならだけど。『努力しているつもり』っていうだけなら、それは実質的には努力してないのと同じだよね?。
努力していたのに事件を防げなかったのなら『努力は必ずしも報われるわけじゃないという証拠』だし、努力していなかったのなら『大人だってちゃんと努力していないのに子供にばかり努力させようとするのはおかしい!!』と言われる根拠にしかならないんじゃないの?。
どこまでも、
『他人には努力しろ!。と言うのに自分は努力しない大人』
が目立って仕方ない。
だから僕は、沙奈子にも『努力さえすれば何とでもなる』なんて言えないし、玲緒奈にもそんなことは言えないよ。大人がそんな有様である限りはね。
あくまで、
『努力すれば必ず報われるわけじゃないけど、努力しなければ希望は叶えられない』
と諭すだけかな。でももう今の時点で、
『高校どころか大学受験まで視野に入れた勉強を毎日してる』
『誰になんて言われようと黙々と毎日ドレスを作り続ける』
という大変な努力をしてる沙奈子に、これ以上『努力しろ』と言いたくても、僕には何をどう努力すればいいのか具体的なことは何も言えないよ。ドレス作りのことに至っては、僕はまったくの素人なんだから。
ただ、
『自分が気に入らないからって他所様を攻撃すれば、本来はなかったはずのトラブルを引き寄せる』
とだけは、諭していきたいけどね。




