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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
1947/2601

千九百四十七 玲緒奈編 「まるで獣みたいな」

十月二十六日。火曜日。曇り。




今日は沙奈子が通う学校で、『合唱コンクール』があったそうだ。ホールまでバスで移動することになるから酔い止めを持っていってもらったけど、加えてお弁当が必要だってことで沙奈子自身が自分で用意して、しかも結人ゆうとくんの分まで用意して持っていったけど、それ以外は普通だった。


でも、結人くんは合唱コンクールがあって今日は給食はないことを鷲崎わしざきさんには言ってなかったから、当然、お弁当も用意されていなくて、それで沙奈子が用意したのを食べたって。


「結人さあ、『一日くらい昼抜いたって死なねえよ』とか言ってんだよ。そりゃ死にはしないだろうけど、周りが気を遣うっての。現に沙奈にお弁当用意させてんだよ?。結人が織姫さんに弁当のことを言わないだろうなって見抜かれてんの。ダサいったらありゃしない」


学校から帰ってきてうちの三階に集まった千早ちはやちゃんが、ビデオ通話越しにそんなことを言ってた、一階で休憩中の玲那と話してたのが僕たちのヘッドセットにも届いてたんだ。


すると玲那が、


「結人ぉ~?。それってもしかして沙奈子ちゃんがお弁当作ってくれるの分かってたからじゃないのぉ~?」


そう言って、結人くんが、


「んなワケねえだろ。忘れてたんだよ…!」


とかぶっきらぼうに応えてた。だけど、その声からは照れが感じられて、僕も絵里奈も頬が緩んでしまう。今もまだ愛想よくはできない結人くんだけど、刺々しい部分がずいぶんと和らいできたように思う。だからこそ玲那もそんな冷やかすような言い方できたんだろうし。そうじゃなきゃ、こんな言い方はしないよ。玲那は。


人間の悪意とか害意とか敵愾心みたいなのを目の当たりにしてきた玲那は、そういうのに人一番敏感だからね。結人くんに攻撃的な態度が残ってたら、茶化したり冷やかしたりはしない。そういうのがないのが分かるからこそ、できるんだ。


しかも沙奈子も、


「私も、念のためについでで作っただけだから……」


結人くんをフォローしてくれる。すると彼は、


「……ありがとよ。助かった……」


だって。本当に微笑ましい。いまだに赤の他人から見れば生意気そうな彼も、確実に変わってきてる。成長してる。普通の人よりは遅くても間違いなく。


僕はそれが嬉しい。鷲崎さんのこれまでの努力が報われたと感じる。この調子で彼が成長していってくれるなら、沙奈子を任せてもいいような気がしてる。


命まで失いそうなほどに傷付けられてきて、大人を心底憎んできて、まるで獣みたいな攻撃性を磨いてきた結人くん。だけど今の彼は、『誰かを傷付けることを正当化しない』ようになってきてる。


だったら沙奈子のことも大切にしてくれると感じるんだ。



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