千九百三十二 玲緒奈編 「融資の対象にはならない」
十月十一日。月曜日。曇り。
修学旅行を終えた沙奈子たちは、中学の間の大きな学校行事のほとんどを終えた。あとは卒業式だけかな。その前にはもちろん受験があって、それも大きなことだと思うけど、でも、志望校は完全に決まり、星谷さんが行ってくれる模試では余裕の合格ラインだから、もうなにも心配はしてない。
もちろん油断してていいわけじゃないとしても、毎日の勉強は欠かさず、模試を何度もすることで入学試験がどんなものかもどんなことをするのかもよく知ったことで、後は試験会場に行った時に緊張し過ぎてしまわないようにできれば、なんてこともないと思う。それに何より、万が一ダメだったとしても別に気にしないし。場合によっては通信制の高校に行っても構わない。今の通信制の高校は、『登校』して『教室』で勉強するっていう形もできるらしい。
『通信制の高校なんて』って言う人もいるらしいけど、そんなこともどうでもいい。むしろ、沙奈子の場合はもうすでに明確に将来の目標が決まってるし、『SANA』に就職するのなら『学歴』さえ関係ないからね。星谷さんも言ってくれてる。
「沙奈子さんの能力については十分に把握できていますから、本人の本当の能力も人間性も分からない一流大学出身者と沙奈子さんのどちらを選ぶかと言われましたら、沙奈子さんしか選択肢はありません。彼女を上回る才能の持ち主でなければ迷う理由もありませんし、もしそのような方が現れたら沙奈子さんとその方の両方を採用します。それで問題ありません」
とも言ってくれてるから、何も心配してないんだ。そして千早ちゃんについても、
「千早についても、将来は決まっています。最悪の場合でもケーキ屋の開店が早まるだけですね。開店資金は私が融資します。こう言うと、『ガチャに当たった奴はいいな』的なことをおっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、そういう方は、毎日休まず学習を続け、人としての在り方と真摯に向き合い、人間性を磨くためのたゆまぬ努力をなさって来たのですか?。学習に費やすべき時間をネットで誰かを見下し嘲り蔑み貶していたりという行為に浪費しませんでしたか?。私はそのような方には、たとえ知り合っていても融資はしません。千早のお姉さん二人やフミの弟さんに対しては融資しないのと同じです。私と知り合うか否かは運かもしれませんが、私から融資を引き出せるかどうかは、運ではありませんよ。私はそんなに優しくありません」
ときっぱり言い切った。そう。千早ちゃんのお姉さんや田上さんの弟くんは、融資の対象にはならないんだ。




