千九百二十四 玲緒奈編 「とんでもない爆弾」
十月三日。日曜日。晴れ。
昨日の千早ちゃんの言葉に、玲那も、
「それは私もそう思う……」
と続いた。その上で、
「私の場合はさ、それこそもっと直接的に大人たちの『犯罪そのもの』に触れてきたわけでさ。実際にそれをやってて、しかもそういうのがあるってことを見て見ぬふりしてる大人がいてて、さらには正当化しようとしてる大人もいるってのを直に見てきたんだよね。それこそ、私を買った奴らだけじゃなく、そういうのを野放しにしてる大人ってのが、それこそもう本当に憎くて憎くてどうしようもなかったよ。だけどあの頃の私は力も弱くて、大人に直接、嚙みつくこともできなかった……。だから内心では、大人だけじゃなくて、『お前らみんな死んじまえ!!』って本気で思ってた……。学校の同級生とかに対してもね。
でさ、社会の授業の時に、第二次大戦中、京都が空爆の標的から外されたって聞いてさ、『なんで外したんだよ、使えねー奴ら!!』って、米軍に対して本気で思ったんだ。『京都も全部焼いてくれてたら、あいつらを生んだ奴らもみんな死んで、私は生まれてこなくて済んだかもしれないのに!』って思ったんだよ。だけどさ、他の大人の前でこんなこと言ったらそれこそ袋叩きにされると思う。でも、パパちゃんや絵里奈は私のこんな話もちゃんと聞いてくれるんだ……。だから私は、正気でいられるんだよ……」
って……。
そういう想いについても、僕は、玲那の親としてちゃんと耳を傾けたいと思う。そして玲那だけじゃなくて、沙奈子の、千早ちゃんの、大希くんの、結人くんの、他の人には言えないようなことについても、耳を傾けたいんだ。そうすることで、他の人にそれを向けないようにしてあげたいんだよ。
人間は綺麗事だけじゃ生きていないのは確かにその通りだと思う。でもそれは、子供だってそうなんじゃないの?。大人にとって都合のいい子供でいられるほど、大人が思う綺麗事の中に納まっていられるほど、単純な生き物でもないよね?。人間なんだから。
僕はその現実と向き合う努力をしたいと思う。
すると大希くんも言ったんだ。
「僕は、千早や玲那さんみたいにつらい目には遭ってきてないけど、それでもやっぱり、体が小さいこととか、女の子みたいな見た目してるとかで、嫌なことを言われたりもするんだよ。だけどそれをお父さんに話したらちゃんと聞いてくれるし、みんなともこうやって話ができるから、他の人に八つ当たりしなくて済んでるんだよね」
大希くんは確かに、沙奈子や千早ちゃんや玲那みたいな目には遭ってきてないかもしれない。だけど彼には、『元死刑囚の孫』っていうとんでもない『爆弾』があるんだ。それを思うと、ね……。




