千九百二十三 玲緒奈編 「イジメやってる奴らの」
十月二日。土曜日。晴れ。
今日は、沙奈子たちは水族館には行かずに、うちの三階でゆっくりしてる。玲那も一緒に。ドレスのデザインのアイデアが十分に溜まってるからだ。
そして玲緒奈は、結構な時間、ウォール・リビングの壁で支える形で立っていられるようになってきた。立ってる時の様子もふらふらと不安定な感じじゃなくなってきてる。これなら『伝い歩き』もそう遠くないうちに始めそうだ。
他の子と比べて遅くても違ってても気にしないようにはしてるけど、それでも、できてくれるのはすごく嬉しい。
そんな玲緒奈を見ながら、千早ちゃんたちの話を、ヘッドセットで聞く。
「なんかさ、学校で配られたタブレット使ってイジメしててそれでイジメられた子が自殺したって話あるじゃん? でも、うちの学校、そこまでじゃないじゃん。なんで同じことができないんだろうね」
「そうそう、それが不思議なんだよ。だけどさ、学校もそうなんだけど、私はイジメてた方の子らがなんでそんなことすんのか不思議でしょうがないんだ」
「うん、僕もそれが不思議だよ。僕はそんなことしたいと思わないのにな」
「私も……」
千早ちゃん、玲那、大希くん、沙奈子が次々と口にする。僕はそれを黙って聞いてた。絵里奈も同じようにして聞いてる。僕たちがこうして聞いてることを、千早ちゃんたちも知ってる。ビデオ通話を繋いでるからね。だから、みんなでリビングに集まって話してるのとほとんど同じなんだ。
その中で、千早ちゃんが熱弁を振るう。
「私も今じゃイジメなんてしたいとも思わない。だけどさ、それが何でかって考えたら、こうやってみんなでいろんなことを話せるからなんだよ。嫌なこととかムカつくこととかもさ。
大人ってさ、すぐ『あれ言っちゃいけない』『これ言っちゃいけない』って言うじゃん?。『親を敬え』『大人を敬え』『目上を敬え』って言うじゃん?。『親とか大人とか目上の人とかを批判しちゃいけません』って言うじゃん?。でもさ、『批判すんな』って言うんだったらさ、批判されないような親とか大人とか目上になれってんだよ。ルールは守らない、ちょっとしたことですぐキレる、嘘ばっか吐く、不倫とかもそうだ。自分らはそんなクソみたいな真似しといて子供には『ちゃんとしろ!』とか言う。ちゃんとしてないのはお前らだろ!。でもそうやって正直な気持ちを口にしたら、『子供のクセに!』って言うんだ。そんな奴らの言うことなんか、なんで素直に聞いてやんなきゃいけないんだよ。ふざけんな!」
と、そこまで強い口調で言って、
「と、そんな風に思うわけ。でさ、そういう不満をさ、大人にはぶつけられないの。だからぶつけやすい相手にぶつけるんだ。私がそう。ヒロのことで沙奈にムカついた時、沙奈だったら何やったっていいと思ってた。私の目の前からいなくなればいいと思ってた。それこそ死んでほしいと思ってた。それ考えたらさ、イジメやってる奴らの気持ちも分かる気がするんだよね……」
さっきまでとは打って変わって、すごくつらそうにそう言ったんだ。




