千九百二十一 玲緒奈編 「言いたいことが素直に」
九月三十日。木曜日。晴れ。
昨日、玲緒奈がつかまり立ちをした瞬間がしっかりと録画できてたことで、沙奈子たちが帰ってきてからはその動画の上映会になってた。
「ぎゃーっ!。カワイイーッッ!」
千早ちゃんがすごい声を上げて、
「ほんとカワイイ…!」
「可愛いね」
「そうだな……」
沙奈子と大希くんと結人くんも続けて。
ここまでも、玲緒奈が寝返りをしたところとか、背面ずり這いしてるところとか、ハイハイでウォール・リビング内を進撃しまくってるところとかの動画も上映してきて大盛り上がりだったけど、今回はそれこそ、『壁に顔を押し付けるようにして這い上がるようにして立ち上がる姿』が特に可愛らしくて。お餅みたいな玲緒奈のほっぺが壁に押し付けられてむにゅっと変形するところとか、すごくたまらないよね。
ちょうど玲緒奈がお昼寝してたからリビングのテレビでも一緒に見られた。絵里奈も、実際に何度も見てるのに、画面に映し出される絵里奈の姿にメロメロだ。
玲那たちは仕事中だったから、それが終わってからになったけど。
そして今日は、波多野さんもバイトが休みだから、アパートの部屋で玲緒奈の動画を。
「うわ~っ!。ホントに可愛いですね。こういうの見てると、自分も子供が欲しくなってくるんですけど、でも、男性と付き合うとかって考えると、げ~って思うんですよねえ」
って声を上げる波多野さんに、
「うんうん、マジそれ。私も今じゃ子供ほしいなって思うんだけど、ごく一部の例外除くと、今でも男性はダメだわ~。考えただけで吐きそうになるわ~」
ちょうど昼休憩中だった玲那が応える。そこに、
「ホント、そうだよね」
「好きでもない相手から好意持たれるとか、寒気しますよ」
イチコさんと田上さんも。
玲那はそれこそもう、男性に対する嫌悪感については当然のものだと思う。でも彼女は、別にネットとかを通して自分の男性への嫌悪感を表に出して攻撃したりはしてない。そういうのも全部、僕たちが受け止めてるから。ネットとかで誰かを攻撃する必要がないんだ。
波多野さんも、イチコさんも、田上さんも、やっぱり男性に対してはそれなりに嫌悪感も抱きつつも、だからってそのことを声高に叫んで露骨に表に出すこともしない。僕たちの間でこうして素直な気持ちを口にすることで発散してるからね。
『言いたいことが言えない世の中は生き辛い』
そう言う人もいるけど、僕はそれだと言葉足らずだと感じるし、僕の実感は違うんだ。
『言いたいことが素直に口にできる相手がいないのは生き辛い』
って言った方が、僕には腑に落ちる。実際、こうやって、世間に向けて発信したら炎上しそうなことでもお互いに口にすることでガス抜きができてるんだ。それができる相手がいるからこそだと思う。




