千九百十三 玲緒奈編 「この子に提示する時期」
九月二十二日。水曜日。晴れ。
『絵里奈は楽をしてる!』
僕がこうやって玲緒奈の面倒を見てることにそう感じる人もいるだろうな。だけどそんなのは僕にはなんの関係もない。僕は僕がそうしたいからしてるだけだ。絵里奈に僕の代わりに玲緒奈を命懸けで生んでもらったし、玲緒奈が成長していく様子をこうして自分の目で自分の肌で感じたい。玲緒奈がこの世界で人間として生きていくための『手本』に、僕自身がなりたいんだ。だから僕が大変だとか絵里奈が楽してるだとか、そんなのはどうでもいい話なんだよ。
玲緒奈は僕の子供だ。そして絵里奈の子供だ。血が繋がってる繋がってないさえどうでもいい。この子にとって『親ガチャが当たりか外れか』もどうでもいい。
『僕がやりたいからそうしてる』
だけなんだよ。それを他人にとやかく言われたくない。僕がこうしてるからって他の人も同じようにするべきだとも言わない。
ただ、『努力』って言葉をやたらと振り回すなら、
『そう言うあなたは、僕と同じことをしてるの?。僕と同じ努力をしてるの?』
とは思うけどね。自分がやりたい努力はするけど、やりたくない努力はしない、『そんなことできるはずがない』と言ってて、それで子供に対しては、
『努力すればなんでも乗り越えられる!』
って言うの?。自分は、自分にとって都合の悪い現実と向き合う努力もしないのに?。それはいくら何でもおかしいんじゃないかな?。子供からしたって納得できないと思う。他でもない自分自身が、『自分にとって都合の悪いことについては努力しない人』が頭ごなしに『努力しろ!』って言ってきて、それで納得できるの?。素直に従えるの?。
従えないんだよね?。だから政府の『お願い』とかも、聞きたくないんだよね?。『政府がするべき努力をしてないように見える』から。それなのに自分は、子供や他人に対しては、
『四の五の言わずに努力しろ!!』
って言うの?。そんな姿が相手からどう見えるのか、考える努力もしないの?。
子供が親の言うことを聞いてくれなかったりするのは、結局はそういうことなんだと思うけどな。
沙奈子も千早ちゃんも大希くんも結人くんも、別に酷い反抗的な態度はとらないよ。それをする必要がないから。
対して玲緒奈は僕の言うことなんて聞いてくれないけど、彼女は今、まさにこの世界のことを学んでいる真っ最中だから理解できなくて当然だよ。そういうのが何となく分かってきてからようやくいろんなことが理解できるようになってくるはずだからね。今はあくまで、
『相手の言葉に耳を傾ける姿勢の手本』
を僕がこの子に示す段階なんだ。その努力をしてる姿そのものをこの子に提示する時期なんだよ。段階があるんだ。




