千九百四 玲緒奈編 「そっちは別に磨く必要は」
九月十三日。月曜日。曇り。
土曜日は沙奈子たちはみんなで自転車に乗って水族館に行って、昨日はのんびりとうちで過ごした。
自転車の運転についても、玲那がしっかりと見てくれてる。
『歩道は必ず歩行者優先』
『歩道を通る時は咄嗟の場合にすぐに止まれる速度』
『歩道を通る時は、歩道の中心線よりも車道側』
『自転車はあくまで車両なので、左側通行。車道の右側を通るのは逆走になる』
『スマホとかを使いながらの運転はしない』
『ヘッドホンとかは使わない』
『他にも、交通ルールは守る』
ということについて、チェックしてくれてたって。もちろん、すべてを完璧に守ることはできてない。特に、『歩道を通る時は、歩道の中心線よりも車道側』というのは、歩行者が歩いている位置や対向してきた自転車の位置によっては必ずしもそのとおりにできなかった。だから、自分だって完璧には守れないんだから、他の人がちゃんと守ってなくてもいちいち目くじらを立てないようにすればいいと、玲那はみんなに告げてくれてた。
それに、一方的に頭ごなしに注意したってまともに聞いてくれる人はむしろ珍しいと思う。それよりも逆切れして食って掛かってくるような人も多いんじゃないかな。もしそうじゃなくても、後から、
『こんな変なのに絡まれた』
とか言ってネットにアップしたりするかもしれない。それじゃ意味がないと思うんだ。そもそも、そういうのは、本来、大人がちゃんと気を付けて子供に手本を示すことであって、他人に注意されるというのが恥ずかしいことなんじゃないの?。自分で自分を律することができるのが『大人』というものだと考えるなら。
『法律やルールに縛られない自分、カッコイイ!』
なんて、何もカッコいいとは思えない。少なくとも大人としては恥ずかしい行為だと僕は感じる。子供のうちにはそういう時期もあるかもしれないけど。
それについても、
「うん……」
「だよね~」
「僕もそう思う」
と、沙奈子と千早ちゃんと大希くんは言ってくれる。ただ、
「……まあ…そうかもな……」
結人くんだけは、ちょっと曖昧な返事だった。彼はまだ、
『殴らなきゃ分かんねえ奴もいるだろ』
って考えに囚われているんだと思う。でも、『咄嗟の場合に身を守る』ことと、『相手を自分に従わせるために暴力をふるう』ことは違うって、彼には分かってもらわないといけないと思う。千早ちゃんもそうだけど、沙奈子や大希くんよりは確実に暴力に対するハードルが低いから。だからこそ、よりしっかりと『暴力に頼らない』ことを身につけてもらわないといけないと思うんだ。
彼はたぶん、千早ちゃんと同じで、誰かを守るために咄嗟に動くことはできるタイプだと思うから、そっちは別に磨く必要はないんじゃないかな。




