千八百九十二 玲緒奈編 「コミュニケーション能力が」
九月一日。水曜日。晴れ。
今日から九月。今月でいよいよ玲緒奈も一歳になる。まだ、『ママ』とも『パパ』とも言ってくれないけど、玲緒奈は結構しゃべる。
「ぽえあ~、っぷ、ぷあう~」
とか、歌なのか呪文なのか分からないものをメロディーっぽいのに乗せて口にしたりもしてる。そして彼女は、はっきりと意思を感じさせる視線を僕たちに向けてくる。その上で、
「ぽえ、ぷぷぷ、ぶばっ!」
お座りして僕たちの前で床をばんばんと叩きながら弁舌をぶってたりするんだ。本人的には何かを語ってるつもりなんだと思う。まったく僕たちには伝わらないだけで。でも、僕たちが彼女の言葉に耳を傾けてると満足するのか、
「うばっ!」
手を振り上げて何かを納得してるみたいなんだ。いったい、どこでそんな振る舞いを学んだんだろう?。僕も沙奈子も絵里奈も玲那もそんな話し方はしないと思うんだけど……。
これが、玲緒奈の個性なのかもしれない。それとも『生まれつきの性格』と言うべきか。身振り手振りを交えて割と強い感じで話す。本当に面白い。
我儘で横暴で傍若無人だけど、実は相手のことはすごく良く見てる玲緒奈。ちゃんと相手の言葉に耳を傾ける姿勢を身に付けてくれれば、コミュニケーション能力は高くなる気もする。
自分の意見を押し付けるばかりで相手の話を聞かない人って、実は『コミュニケーション能力は高くない』って今は思う。僕の両親も兄も、一方的に自分の意見を押し付けるだけで相手の話を聞いてなかった。それは本来、『コミュニケーション』とは言わないと思うんだ。こちらの意図を伝えつつ相手の意図も汲み取るからこそコミュニケーションは成立するわけで、それがなかったらコミュニケーションとして成り立ってないはずなんだ。
世の中では無口な人や話し下手の人を『コミュニケーションが苦手な人。下手な人』って捉えてる印象があるけど、実は大きな声ではきはきしゃべってても、相手の言葉に耳を傾けない人は『コミュニケーション能力が低い』んだと実感する。
これについては、田上さんが、
「ホント、私の母親って声は大きいし押しは強いんですけど、あれ、コミュニケーション能力は実は低いって分かりました。コミュニケーション能力が低いから自分の言いたいことを相手に伝えるには一方的に押し付けるしかないと思ってるんだって分かったんです。自分の意見や要求をスムーズに相手に呑ませるためのコミュニケーションの取り方があの人には分からないんですよ。そう考えたら、人前で大きな声でしゃべれるからってコミュニケーション能力が高いとは限らないんだって実感できました」
って言ってたな。
だから玲緒奈には、相手の言葉に耳を傾ける姿勢を身に付けてもらいたいと改めて思ったんだ。




