千八百八十八 玲緒奈編 「避けたがる傾向に」
八月二十八日。土曜日。晴れ。
世の中には、
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『子供のおむつがいかに早くとれるか?』
というのを競ってる人もいるらしい。だけど山仁さんはそういうのには拘らないように心掛けてて、
「おむつがいつとれるか、母乳をいつ終えられるか、おねしょがいつ治るか、そんなのは人それぞれですよ。そんなことの早い遅いで人の価値は決まりません。少なくとも私はそんなことで誰かを嘲笑うことをしたいとは思いません」
って言ってた。そんな山仁さんに出逢えた僕は本当に幸運だったと思う。そうじゃなければ、沙奈子のおねしょが治らないことで追い詰められてしまって、彼女にひどく当たり散らしたりってこともあったかもしれない。
だからこそ思うんだ。そんなことにばかり拘ってるから、他人を馬鹿にして自分は偉いんだ優れてるんだってせずにいられない人がいるんじゃないの?。って。
自分や自分の子供がおむつが早く外れたからってそれを理由に他人を見下すような人が立派な人格者だと思う?。おむつが早く外れた人が本当に優秀なの?。そういう人が本当に大人になってから優秀だったの?。
僕にはそんな風には思えないんだけどな。
山仁さんは言ってた。
「私は結局、イチコや大希が四歳くらいまで、出掛ける時にはおむつを穿かせていました。遠出をする時なんかはそれこそです。外出先で必ずトイレにすぐに行けるとは限りません。トイレが混んでる時だってあるでしょう。そういう時、子供は大人よりも我慢がきかないことがある。それで漏らしたりしたらそちらの方が迷惑になりますよね?。でも、おむつを穿いているだけなら別に誰かに見せるわけでもないんですから何も迷惑が掛かるわけでもない。ただただ親の見栄の問題だけなんじゃないでしょうか?。『いつまでもおむつを穿いてたらイジメられる』と言う人もいますが、イチコも大希もそれを理由にイジメられたことなんてありませんでしたよ。からかわれた程度のことはあったとしても、そんなのはからかう方が悪いんです。気にする必要はありません。それに、他人をからかうような人は、とにかく何か理由を見付けてからかいたいだけですしね。
とにかく、大人は『面倒だから』『時間がないから』で子供と向き合うことを避けたがる傾向にありますよね?。なのにおむつを使うだけで省ける手間をわざわざ掛けようとしたりもする。そうやって子供に手間を掛ける時は、ほとんどが『親としての見栄』のためだったりするんじゃないですか?。私は、私自身の見栄のために手間を掛けるより、人間としてイチコや大希を受け止めることにこそ手間を掛けたいと思ったんです」




