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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千八百八十五 玲緒奈編 「お安い御用だよ」

八月二十五日。水曜日。晴れ。


今日はなんだか久々にしっかり晴れた気がする。その分、暑さも戻ってきた。




沙奈子が『いってらっしゃいのキス』をねだらなくなったことで、少し寂しい気もしつつ、それは彼女の成長の証なんだと自分に言い聞かせて、今日も見送る。


そうだよね。僕のところに来たことで改めて『生まれる』ことができたんだとしたら、沙奈子は今、『五歳』って感じなのか。そろそろそういうのを恥ずかしいとか思うようになってもおかしくないんじゃないかな。


その一方で、今でも絵里奈や玲那と一緒にお風呂に入ってる。そっちはまだ大丈夫とはいかないみたいだ。当然か。すべてがある日突然に変わってしまうわけじゃないと思う。少しずつあれこれ変わっていくというのがむしろ普通なんだろう。だからそれでいい思うんだ。


沙奈子の『親離れ』が始まりつつあるということなら、僕たちは『子離れ』をしなくちゃいけない。子供が自立しようとしてるのに親がその邪魔をしてどうするんだ。


って、自分に言い聞かせるんだ。


でも、やっぱりちょっと寂しいなあ……。


と思ったら、


「ただいま~!」


千早ちはやちゃんや大希ひろきくんや結人ゆうとくんと一緒に帰ってきた沙奈子が、三人を先に三階に上げてから、


「ただいま……」


って、仕切りのカーテンを開けて『おかえりなさいのキス』をねだる仕草をした。


「あ、ああ、おかえり」


僕は仕事を中断して立ち上がって、沙奈子の額に『おかえりなさいのキス』を。


「おかえりなさい」


続けて絵里奈も、沙奈子の右頬に『おかえりなさいのキス』。すると、ホッとした表情になって、


「ありがとう」


って言いながらみんなの後を追って三階に上がっていったんだ。その様子に、たぶん学校で少し嫌なこととかがあったんだろうなって察した。


だから、無線の小型ヘッドセットを付けて、三階のみんなと話ができるようにすると、千早ちゃんが、


「いや~、今日、ガッコで沙奈がちょっと他のクラスの女子に絡まれてさあ。なんか、その子が好きな男子が沙奈のこと気になるみたいなことを言ったらしいんだよね。で、『彼に色目使わないで!。陰キャのクセに!』みたいなこと言ってきてさ。いや、沙奈はそんなの興味ねーっての!」


千早ちゃんが怒ってた。なるほどだから沙奈子も嫌な気分になって、それで癒されたくて『おかえりなさいのキス』をねだったのかとピンときた。そういうことならお安い御用だよ。


僕は、お金はそんなに掛けないかもしれないけど、代わりに『手間』はこれからも掛けようと思う。


『キスはもう要らないって言ったじゃないか!』


みたいなことも言わない。沙奈子が必要ないならしないけど、してほしいと思うならいつだってするよ。



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