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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
1884/2601

千八百八十四 玲緒奈編 「こうやって徐々に子供は」

八月二十四日。火曜日。晴れのち曇り。




今日から沙奈子の学校が始まる。学校そのものは嫌いじゃない沙奈子は、朝も淡々と用意をしてた。


「おはようございま~す♡」


「おはようございます」


「おはようございます……」


千早ちはやちゃんと大希ひろきくんと結人ゆうとくんが迎えに来てくれた。


「おはよ~♡」


『SANA』の始業準備をしていた玲那が三人を出迎えてくれる。


そして、


「いってきます」


「いってらっしゃい」


制服を着て通学用のリュックを背負った沙奈子を、玲緒奈れおなを抱いた僕と絵里奈が送り出す。ただ、


「あれ?。いってらっしゃいのキスはいいの?」


いつものキスをねだる仕草をしなかったから尋ねると、


「うん……もう大丈夫……」


だって。急にそんなことを言い出すから『え…?』と思ってしまったけど、


「そうか、分かった」


とは応えておいた。『もう大丈夫』って言ったしね。これまでのキスは、沙奈子にとっては『僕にとっての自分という存在を確認する』ための作業だったのかもしれない。それまで実の父親と母親から蔑ろにされてきた分を取り戻そうとしてのものだったのかもしれない。


だとすれば、成長と共にそれが彼女の中で折り合いがついて、『大丈夫』って思えるようになったのかもしれない。


そのあたりは、僕は沙奈子じゃないから完全には分からないけど、表情を見る限りは本当に大丈夫そうだ。こうやって徐々に子供は親から自立していくんだなと感じる。


『キスしてもらわないと不安』だったのが、『キスしてもらわなくても自分が認めてもらえてる実感がある』ことで、少し距離を取ることができるようになったってことかな。


正直、寂しい気持ちはある。だけどここで僕の方から、


『ずっと続けてきた習慣なんだから、やらなきゃダメだ!』


みたいに押し付けるのは、ダメな気がする。そんなのはただのセクハラじゃないかな。子供が『必要ない』って言ってるんだから、頭ごなしに『必要だ!』って言うのも違うと思うんだ。それは親の方が『子離れ』できてないだけだと思う。子供が『必要ない』と言ってても実際にはまだ無理ってこともあるだろうけど、敢えてさせてみて実際に大丈夫かどうかを確かめる手間を掛けるのも親の務めなんじゃないかな。


それに、沙奈子は僕に反発して本当はできもしないことを『できる!』と言い張る必要がない。その彼女が『大丈夫』と言ってるのを一方的に否定するのは『愛情』じゃないと僕は感じる。


だから、二階から一階に下りる階段のところで、僕と絵里奈は、


「いってらっしゃい」


と声を揃えて笑顔で沙奈子を送り出したのだった。



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