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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
1870/2601

千八百七十 玲緒奈編 「人間として扱われなかった」

八月十日。火曜日。曇り。




玲緒奈れおなは、自分の気持ちをはっきりと表現してくれる子だと思う。対して沙奈子は、自分の気持ちをとにかく押し込めようとするタイプだった。だけどそれは、生まれつきそうだったのかは、分からない。生まれたばかりの頃の沙奈子を知らないから。


もしかすると、沙奈子も、今の玲緒奈れおなのように自分の気持ちを表に出す子だったのかもしれない。だけどそれを表に出すと、怒鳴られて、叩かれて、しまいには煙草の火まで押し付けられて、一方的に従うことを求められたんだと思う。沙奈子自身、記憶がある限りでも、虫歯で歯が痛いと口にしただけで折檻されたそうだから。そうなるともう、何もかもを押し込めるしかなかったんだと思う。押し込めて我慢するしか。


ううん、『我慢』と言うのもおこがましい、『沈黙』と『服従』だったんだろうな。


それを求められた結果として沙奈子がどうなったのかを知る僕が、玲緒奈に対して同じことを求められるわけがないじゃないか。


身近な大人から『沈黙』と『服従』を求められた末に僕のところに捨てられた沙奈子は、大人の一挙手一投足に怯える、『獣』のような子になってしまってた。僕が、違和感を覚えて彼女の口の中を見せてもらおうとしただけで、


「ごめんなさい!、ごめんなさい!、ごめんなさい!」


とパニックを起こしてしまうような、人間の言葉を話してはいるけど、実際にはとても人間とは思えない反応をする『何か』になってしまっていたんだ。


だから僕は、そんな沙奈子にどう接していいのかまったく分からずに、ただただ綱渡りを続けるしかできなかった。


でも、その根っこにあったのは、


『人間として接しなくちゃ』


という想いだったと思う。


人間とは思えないような反応をする沙奈子だったけど、彼女は間違いなく人間なんだ。人間以外の何かじゃない。当時はそこまで考えられていたわけじゃなくても、僕は自分でもよく分からないうちに、


『この子は人間なんだ』


って自分自身に言い聞かせてた気がするんだ。だとしたら、同じ人間である僕がどうしてほしいのか、どう接してほしいのか、それを思えば何とかなりそうな気もしてたように思う。


沙奈子をペットや家畜やロボットとして自分に従わせようとするんじゃなくて、ただただ人間として扱うように心掛けてたんだろうな。


そうしたら、沙奈子は、ちゃんと『人間』に戻ってくれた。


これは、結人ゆうとくんもそう。実の母親や身近な大人たちから人間として扱われなかった彼を、ただ、人間として接することを心掛けたんだ。



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