千八百六十九 玲緒奈編 「ぶきゃーっ!!」
八月九日。月曜日。曇り時々雨。
今日は台風が接近してるそうで、すごく天気が不安定な上に風も強かった。
台風と言えば、いつぞやの、電柱まで折れたりしてた時のを思い出すけど、幸い、今回はそこまでじゃなかった。
でも念のため、ベランダの物干し竿とかは外して下に置いて紐で縛ってまとめておいた。とは言え、たぶんそこまでする必要はなかったみたいだけどね。
ただ、万が一があったら嫌だからね。こうやって気を付けてても万が一ってことはあると思う。だったら、気を付けてなかったらそれこそ事故に遭うのを手をこまねいて見てるのと同じじゃないかな。
夕方も、結構、風が強かった。だから今日は散歩はやめておいた。もし何か飛ばされてきて玲緒奈に当たったりしたら悔やんでも悔やみきれない。
それに玲緒奈自身は、『ウォール・リビング』内に作った段ボールのトンネルが気に入ったらしくて、
「ぽわお!」
とか声を上げながらトンネルを行ったり来たりしてた。かと思うとトンネル内に座って、盛大に拳しゃぶりをしながらくつろいでたんだ。それでも疲れたのか、いつもなら散歩に行ってる時間にお昼寝してた。
でも、起きたらまたトンネルを進撃して、しまいには出てこなくなって、
「はい、あ~ん♡」
トンネル内に居座った玲緒奈に、僕は体を思いっきりかがめて覗き込みながら離乳食をあげたりしてた。
その様子を、絵里奈がスマホで撮ってくれてた。しかも、
「玲緒奈~♡」
僕とは反対側からトンネルを覗き込みつつ写真を撮ろうとスマホを向けたら、玲緒奈が突然、猛然と絵里奈の方へ向かって突進した。
どうやら、絵里奈が手にしてたスマホに興味を持ったらしい。さしずめ、それを強奪するために襲い掛かったって感じかな。
だけど絵里奈もそれを察して慌てて体を起こし、『ウォール・リビング』の壁の外にスマホを置いた。
「どうしたのかな~♡ 玲緒奈~♡」
ニコニコ笑顔だけど、スマホのことを誤魔化そうとしてのことだというのは、さすがに僕には分かってしまう。すると玲緒奈は、
「ぷー……、きゃあっ!」
何やら合点がいかないって感じの訝しげな表情になって、まるで抗議するみたいに大きな声を上げた。さらに、
「ぴゃあっ!。ぶぅーぶぶぶ!!」
絵里奈の前でお座りして、床を手でばんばん叩いて、やっぱり猛抗議を。しかも、足をぐいぐいと引き寄せるように動かして、足とお尻だけで絵里奈目掛けて前進。
「あはは!。なにそれ♡」
その姿があんまりにも可笑しくて、僕も声を上げてしまう。すると玲緒奈はそれが気に入らなかったのか、今度は僕の方に振り向いて、
「ぶきゃーっ!!」
って雄叫びを上げたのだった。




