千八百六十六 玲緒奈編 「僕たちが無理なく生きて」
八月六日。金曜日。晴れ。
実は、今日までの三日間、沙奈子の学校で『学習会』があった。家だと夏休みの課題が捗らなかったりする生徒や、自主勉強をする生徒のために用意されていたものだった。だけど、沙奈子たちには必要なかったな。何しろ、学習会が始まる前にすでに課題は終わらせていたし、それからも毎日、うちの三階に集まって自主勉強をしてるから。それが完全に習慣付いていて、同時にみんなが集まって遊べる理由にもなってるから、嫌々やる必要がないんだ。
そのためなら、うちの三階を開放しても十分にお釣りがくるよ。それに、この家に引っ越すまでは、ずっと、山仁さんの家で沙奈子がお世話になってたからね。これだけじゃ恩を返しきれない気もするけど、できる限りはと思う。
それに僕たち家族としては、二階のリビングだけで十分に間に合ってるしね。それも、玲緒奈のために用意した『ウォール・リビング』だけでほとんど。
沙奈子も、千早ちゃんや大希くんや結人くんが帰った後はずっと二階の和室でドレスを作ってるし。
もっとも、『新型コロナウイルス感染症』の影響で、水族館以外にはなるべく出掛けないようにしてるから、朝から夕方まで、ずっと、沙奈子も千早ちゃんも大希くんも結人くんも三階にいることが多い。お昼は、千早ちゃんが持ってきた食材で自分たちで作って食べる。それどころか、一階の厨房で作るから、ついでに、『SANA』で仕事してる玲那やイチコさんや田上さんにまでついでに昼食を用意してくれてるんだ。
ちなみに食材を負担してるのは、星谷さん。食材を宅配で届けてくれるサービスを利用して山仁さんのところに届いたのを千早ちゃんと大希くんが持ってくる形だね。
この辺りも、
「千早とヒロ坊くんがお世話になってますから」
という名目で用意してくれてるんだ。その残りで、玲緒奈の離乳食を作らせてもらったりもしてる。
本当に僕たちは、山下家、山仁家、星谷さん、波多野さん、田上さん、結人くんで一つの家族みたいになってると感じる。こうやってみんなで力を合わせて生きていこうとしてるんだ。
しかも、誰か一人におんぶにだっこというのじゃなくて、それぞれが力を出し合って。
昔はきっと、こういうのも別に珍しいことじゃなかったんだろうな。
もちろん、だからって『昔の方がよかった』みたいなことを言うつもりもないんだ。昔は昔で、いろいろ問題はあったんだと思う。でも、同時に、何もかもを否定してしまう必要もないんじゃないかな。それに僕たちは、『昔のやり方をしようとしてる』わけじゃないしさ。僕たちが無理なく生きていこうと思ったら、たまたまこういう形になったっていうだけでね。




