千八百五十七 玲緒奈編 「世帯年収一千万を」
七月二十八日。水曜日。曇り。
今日も、僕が玲緒奈を連れて検診に行く。ベビーカーを押しながら、星谷さんが話してたことを思い出す。
「では、一人一人に年一千万の給与を支払えないのであれば、どうすれば『世帯年収一千万』を実現すればいいのでしょう?。となれば、まぎれもなく、家人の何人かが仕事に就いて、そうして合わせて年一千万の世帯年収を実現するしかないでしょう。つまり、最低でも夫婦共働きが大前提となるでしょうね。
けれど、ここで、世間ではどんな意見が出ているでしょうか?。女性が外で仕事をすることに対して否定的な意見を持つ方が多いのではありませんか?。私が実際に見た限りでも、『女はまともに仕事ができない。会社の邪魔者だ』といった趣旨の発言を耳にすることがありました。そういう方々は、いったい、どのようにして『世帯年収一千万』を実現なさるつもりでしょう?。
それをおっしゃっていた当人は、年一千万以上の給与を得てらっしゃるのかもしれません。ですが、それをおっしゃっていた方が務めている会社では、男性社員。男性従業員の全員が、年一千万以上の給与が支払われているのでしょうか?。そうでなければ、男性だけが働いて世帯年収一千万を実現することは不可能なのではないですか?。その現実を理解してらっしゃるのでしょうか?。
すでに、国自体が、夫婦共働きを前提にした政策を行っているのではないですか?。それが嫌だとおっしゃるのなら、男性社員全員に、年一千万以上の給与を支払うべきではないのですか?。『年収一千万円以上の所得がある世帯以外は社会のお荷物である』とするならば。
ましてや、『年収一千万円以上の所得がある世帯以外は社会のお荷物である』とおっしゃる方や、『女はまともに仕事ができない。会社の邪魔者だ』とおっしゃる方が経営者であった場合、ご自身が運営する企業の男性社員・男性従業員全員に、年一千万以上の給与を出しているのでしょうか?。それを出していないのであれば、『年収一千万円以上の所得がある世帯以外は社会のお荷物である』や『女はまともに仕事ができない。会社の邪魔者だ』などとおっしゃるのはおかしくないでしょうか?。
残念ながら、『SANA』をはじめ、私が運営に関わっている企業においては、そのようなことは実現できそうにありません。ゆえに私は、『年収一千万円以上の所得がある世帯以外は社会のお荷物である』や『女はまともに仕事ができない。会社の邪魔者だ』などとは、口にしないのです。男性の収入だけで世帯年収一千万を実現できる状況にはできないのですから」




