千八百五十五 玲緒奈編 「悔しいなら自分も」
七月二十六日。月曜日。晴れ。
星谷さんは言う。
「私は、一部の特別な才能を持つ人だけに価値があるとは考えません。例えば、年収一千万を超える社員が、社内清掃も行ってくれますか?。そういう社員が社内清掃に時間を費やしていて効率が良いと感じますか?。事務作業に時間を費やしていて、能力を活かせると思いますか?。だから、ある程度以上の規模の企業では、社内清掃は外注に出していたりするのではないですか?。年収百万円台のパートタイマーを使っている業者を使っていたりするのではないですか?。また、煩雑な事務作業に専従している社員に、年一千万円を支払っている企業がどれほどありますか?。
また、『年収一千万円以上の所得がある世帯以外は社会のお荷物である』的なことをおっしゃる方がいらっしゃいますが、年収一千万以上の社員が自身の仕事に専念できるのは、年収一千万に満たない方々に、様々な煩わしい業務を任せているからではないのですか?。そういう方々がいらっしゃるから年一千万円の給与を出すに相応しい仕事ができるのではないですか?。
本当に、『年収一千万円以上の所得がある世帯以外は社会のお荷物である』ならば、年一千万以上の給与を得ている社員がいる企業が、その社員の仕事を支えている他の社員に対して年一千万以上の給与を支払わず『社会のお荷物』を作り出しているのは、おかしいのではないですか?。自社のオフィスを清潔に保ち働きやすい環境を維持するために、年収百万円台のパートタイマーを使っているような業者に清掃を依頼するのはおかしいのではないですか?。
加えて、パートタイマーに対してたとえフルタイムで働いても年収一千万には遠く届かないような給与しか出せない程度の料金で、業者に清掃を依頼するのはおかしいのではないですか?。一部の社員が年収一千万円を実現できているのは、『年収一千万円を得られない層』を意図的に作り出すことで、そちらに支払う給与を低く抑えることで実現しているのではないですか?。それで、『年収一千万円以上の所得がある世帯以外は社会のお荷物である』などと口にするのは、むしろ社会というものを理解してらっしゃらないのではないですか?。
こう申し上げると、『悔しいなら自分も年収一千万円が得られる仕事に就けばいい』とおっしゃるかもしれませんが、それはおかしいですね?。誰も彼もが年収一千万円を得られる仕事に就いたなら、誰が煩雑な事務作業を行ってくれるのですか?。誰が社内の清掃を行ってくれるのですか?」




