千八百四十六 玲緒奈編 「シビアだけど社会人として」
七月十七日。土曜日。曇り。
このところ続けざまに水族館に行ったことでデザインのアイデアがたまりすぎてしばらく形にするのも時間が掛かるようになったということで、今日はドレス作りに集中することになった。
沙奈子は三階でドレス作りを、千早ちゃんと大希くんは裏庭でプールに、結人くんはやっぱり三階でヘッドホンを付けてゲーム三昧らしい。
もちろん、勉強は終わらせてから。
世の中は『新型コロナウイルス感染症』の影響で受験勉強にも影響が出てるという話だけれど、沙奈子たちの場合は、受験勉強そのものはもう終わってるんだ。しかも星谷さんが、高校入試と同じ方式の模擬試験を独自に用意してくれて、ここまででももう何度も受けてたんだ。
沙奈子と千早ちゃんと大希くんは、第一志望の高校でもまったく余裕の合格点。結人くんが、今の時点だとギリギリ合格できるかどうかのボーダーラインらしい。だけど、今の時点で実際の入試を再現したものでボーダーラインということは、ここからちゃんと勉強すれば十分に合格できる可能性があるということだよね。
これからも、月に二回の頻度で、同じ形で模擬試験を行うと、星谷さんは言ってくれてた。
「一夜漬けや付け焼刃では、合格できるかどうかは運次第ということになってしまうでしょう。それでは、『高校に合格することが目的』になってしまいます。それでは駄目なんです。高校に合格するのはあくまでスタートラインに立つというだけ。実際にはそこからが本番です。実はイチコも、高校に合格したことで安心してしまい、一年生の時点では『燃え尽き症候群』に近い状態になって、モチベーションが失われてしまっていたそうです。これは、カナやフミも遠からず似たような状態でした。
幸い、イチコは二年生から取り戻せましたし、カナは就職に絞ったので卒業さえできればという状態でしたが、フミは大学入試に苦労することになってしまいました。
私は、学歴だけが大事だとは考えませんが、現実問題として、やはりある一定以上のランクの大学に通っていたということは基礎的な能力が担保されていると企業側が捉えるのも当然だと思います。人柄が好ましいものであるかどうかは、そもそも大前提なんです。真面目に働く気がない者は要らない。真面目に働く気があって、その上で一定以上の水準の能力を持つ人材が欲しいと考えるのは、当然のことなんです。となれば、学歴でふるいを掛けるのは合理的な判断だと私は思います。飛び抜けて高い能力を持っている人については、ヘッドハンティングなどの形で採用すればいいのですから」
と、シビアだけど社会人として『そうだよね』と思わせることをちゃんと口にしてくれるから、本当に頼りになる。彼女はまだ現役の大学生だけど、同時にすでに企業人でもあるからね。




