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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百八十四 玲那編 「一緒にお風呂」

「私は基本的に男×男はあんまり興味ないかな。いじる時のネタとしてはアリだけど、ガチ勢にはついてけないから腐女子じゃないと自分では思ってる。ただ、可愛い女の子は大好物だ!。推定10歳の金髪ロリ、正義だと思います!!」


いや、そんなこと拳握り締めて力説されても…。


うん、まあ、玲那のことは受け止めようと思ってるよ。ただ、玲那の趣味を理解するっていうのはまた別の話かな。口出しはしないけど、同じ趣味になるというのは僕には無理そうだし。それに沙奈子が玲那のこういうところを見習ってしまうとちょっと困るかなっていうのは正直言ってある。


どんなことになっても受け止めたいと言いながら、一方ではそうなったら困るなあと思ってしまうのも人間ってものかなと思ったりする。楽しそうなのは楽しそうだとも思うんだけどさ。僕もまだまだってことなのかな。


沙奈子は、玲那のこういうところをどう思ってるんだろう?。嫌がってる様子はないから、少なくとも今のところは気にしてないとは思う。ただそれは、沙奈子なりの考え方とか価値観とか感性みたいなのがまだ未成熟なこともあって、判断自体できないっていうのもありそうだ。沙奈子が自分から話しかけたりっていうのがあまりできないのも、この子の自我がまだ十分に固まってないからなのかもしれない。だから今はまだ、相手に話しかけてもらったことに反応するだけっていうのはありそうな気がしてた。沙奈子が自分の考えて自分で決めて自分から話しかけられるようになるのが、当面の目標かな。


僕の夢に出て来た。無口ではあるけど自分の考えに従って自分の行動を決められる沙奈子の姿が頭をよぎった。そうだ。話しかけることができるって言うか、自分が何をするのか自分で決められるようになるってことだな。


だけど、そういう様子も少しずつ見え始めてる気がする。ちゃんと自分がしたいことを主張するようになってきてる気がする。最初は、それこそ僕がああしてこうしてって言わないと本当に何もしない感じだったもんな。ご飯だって、これを食べておいてねと僕が言わないと、自分からは食べようとしなかったかも知れない。それこそ、生きてるだけで心もない人形みたいな感じだった。


それを思い出して、僕は背筋が冷たくなるのを感じた。僕が彼女のことを面倒がって放っておいたら、それこそ何も食べようとせずに餓死することだってあったかも知れないって思ってしまった。さすがにそこまでのことはなくても、命の危険があるくらいになるまで食べようとしないなんてことくらいは、この子だったら十分にありそうだ。それくらい、沙奈子は痛みや苦しみに対して我慢してしまう子だった。


そんな沙奈子が、絵里奈や玲那の前で普通の10歳の女の子って感じで笑ってる。それを考えたら、玲那の変なところをちょっとくらい真似してしまう程度のことは大目に見たらいいのかなあ。


今までは僕自身も必死だったからあまり自覚してこなかったけど、これまでのは『死なない』『死なせない』ためにどうしたらいいのかってのをやってきたんだって思った。とにかく生き延びるために、沙奈子に生きてもらうためにはどうしたらいいのかってって感じだった気がした。でもこれからは、『どういう風に生きていくか』『どういう自分になるか』っていうことを、これまで以上に具体的に考えなきゃいけない段階になったのかもしれない。


そしてそれは、僕自身もそうなんだと思う。これまでは死んでないだけっていう生き方だった。だけど、もし、このまま本当に絵里奈と結婚するとかになったら、それだけじゃ駄目なんじゃないかな。僕たちの家庭をこれからどういう風にしていくのかっていうのも考えなきゃいけないんだよな。


ちょっと前までの僕なら、想像もできないような話だと思った。自分には縁がないことだと思って、考えることさえ諦めてたことだった。それが今、僕の目の前にある。


午後の勉強をする沙奈子を見守る絵里奈と玲那。二人がそれを考える機会をくれたんだってことを改めて実感したのだった。




午後の勉強の後、また莉奈の服作りをして、日が暮れた頃に夕食になった。予定してた通りに麻婆豆腐だった。沙奈子も食べられるように辛さは控えめだったけど、でも美味しかった。絵里奈は本当に料理が上手なんだと思った。こんな素敵な女性に興味を持ってもらえないとか、世の男共はいったい何をしてるんだと、自分のことを棚に上げて思ってしまった。ああでも、人形相手に話をしている絵里奈の姿って、確かに軽くホラーだったりするよなとは思わなくもない。


夕食の後は当然、お風呂だ。沙奈子は当たり前みたいに絵里奈と入った。だけどその後、沙奈子と絵里奈がお風呂から上がると、玲那がとんでもないことを言いだした。


「お願いお父さん!、一緒にお風呂に入って!」


は!?。


「ちょ、ちょっと玲那!、何言ってんの!?」


さすがに絵里奈がそう言った。玲那が僕に甘えるのに慣れてきたとは言っても、これは無茶苦茶だ。絵里奈の反応も当然だと思った。だけどその時、玲那が見せた表情に、僕も絵里奈もギョッとなってしまったのだった。


玲那は、これまで見せたことのない表情で絵里奈のことを見た。それは、射るような鋭い視線だった。その時、沙奈子はたまたま部屋着を着ようとかぶってるところだったから見てなかったけど、見てなくて本当に良かったと思ってしまった。それくらい、怖い目だった。でもそれは一瞬で、すぐにいつもの彼女の顔に戻った。そして沙奈子に向かって言った。


「ね~、沙奈子ちゃん、お父さんと一緒にお風呂入っていい?」


くねくねと甘えるようにそう聞くと、沙奈子は「いいよ」と笑顔で返してくれた。それで結局、玲那と一緒にお風呂に入ることになってしまった。


嬉しそうにいそいそと服を脱ぐ彼女を見ながら、僕はちょっと言いようのない不安を感じてた。さっきの絵里奈を見た目が頭をよぎって、正直怖いと思ってしまった。それでも意を決して一緒にお風呂に入ると、玲那は、


「沙奈子ちゃんみたいに頭洗って」


ってニコニコしながら言ってきただけだった。言われた通りに、自分の体を洗ってる玲那の頭を洗ってあげた。その背中はやっぱり沙奈子とは全然違ってた。大人の女の人だった。


頭を洗い終えると、沙奈子がしてるみたいに僕の背中を洗ってくれた。それから一緒に湯船に浸かった。いくらなんでも大人二人が入るには狭くて二人とも思いっ切り膝を抱える恰好だったけど、玲那は上機嫌だった。でもしばらくしてホッとした空気になった頃、彼女が不意に口を開いた。


「今朝、絵里奈とキスしてたでしょ?。お父さん…」


やっぱり、見てたのか…。僕の顔からさーっと血の気が引くのを自分でも感じたのだった。


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