千八百二十九 玲緒奈編 「僕の実の両親や兄は」
六月三十日。水曜日。曇り時々雨。
例の、飲酒運転の自動車が小学生の列に突っ込んだという『事件』で、二人が亡くなっただけでなく、一人は、命が助かっても大変な障害が残ったり、もしかしたらずっと意識が戻らないままになったりするかもしれないということだった。
それについて、僕たちは話し合う。
「僕は、沙奈子や玲緒奈がもしそんなことになっても、きっと、見捨てることができないと思う……」
そう言う僕に、絵里奈が、
「私もです。もし、それで沙奈子ちゃんや玲緒奈を見捨てられるのなら、玲那とだって付き合ってません」
玲緒奈におっぱいをあげながら口にする。すると玲那も、
「私だってそうだよ。私の場合は、パパちゃんや絵里奈や沙奈子ちゃんが、私が事件を起こしても見捨てずにいてくれたからっていうのが大きいけど。あんな大変なことをしでかしたのに、このことはたぶん、みんなの一生について回ることなのに、それでも見捨てずにいてくれたんだ。その私が、パパちゃんや絵里奈や沙奈子ちゃんや玲緒奈を見捨てるなんて、有り得ない。そんなことしたら、私は私を許せないと思う」
すごく真剣な表情で言った。そして沙奈子も、
「私も、お姉ちゃんと同じ……。お父さんは、私を見捨てなかった。施設に預けてしまえばいいのに、そうしなかった……。お母さんも、お姉ちゃんも、私のことを大事に想ってくれてる……。だから私も、お父さんやお母さんやお姉ちゃんや玲緒奈のことを見捨てたくない……」
ドレスを作る手を止めて、言ってくれた。沙奈子にそう思ってもらえてるのがすごく嬉しい。
「ありがとう、沙奈子……」
彼女を真っ直ぐに見つめながら、僕は応えた。その上で、
「僕は、正直、自分が自分でいられなくなったら無理に長生きしたくないと思ってた。植物状態とかになったら、それこそね。だけど、僕は、沙奈子や絵里奈や玲緒奈や玲那がそんな風になっても、生きててほしいと思うんだ。だったら、僕がそうなっても、みんなが生きててほしいと思うなら、最後まで頑張らなきゃと今は思う……」
僕の言葉に、
「うん…」
「もちろんです。私たちを置いて勝手にいなくなったりしないでください」
「そうだよ。パパちゃんに簡単に死なれてたまるか。黄泉比良坂までだって追いかけて連れ戻す!」
沙奈子が、絵里奈が、玲那がそう言ってくれた。
正直、僕の実の両親や兄は、僕がそんなことになったらそれこそ『足手まといだ』『邪魔だ』って考えるのが簡単に想像できてしまう。だから、そんな風に思われるくらいならさっさと死にたいと思ってた。だけど今の家族は、僕にとっても、悲しませたくないそれなんだ。




