千八百二十七 玲緒奈編 「根拠のない思い込みに」
六月二十八日。月曜日。曇り時々雨。
今日また、小学生の列に飲酒運転の自動車が突っ込んで二人が亡くなるという大変な事故、ううん、『事件』があった。
これまでにも何度も不幸があったのに、どうしてそこから学ばないの?。『自動車の運転免許を持てて飲酒もできるいい歳をした大人』が。
そして、玲緒奈と一緒に散歩したり買い物に行っただけで、ほとんど毎日のように、『子供を乗せた自転車で信号を無視する大人』や『青信号の横断歩道を歩行者が渡ろうとしてるのにスピードを落とさず突っ切る自動車』や『一時停止の表示がある路地から一時停止をせずに歩行者や自転車を止まらせて強引に出てくる自動車』とかを見る。
そんな大人がなぜ子供に対して偉そうにできると思うんだろう。
僕はそうやって、『他人の振る舞い』を見て、それを自分がやったらどうなるか?というのを考えるんだ。
ましてや、僕が飲酒運転で小学生の列に突っ込んで二人も亡くならせたら……?。
沙奈子も、絵里奈も、玲緒奈も、玲那も、まとめて地獄に落ちるだろうな……。だったら、僕はそんなことできない。飲酒運転なんて恐ろしいことは。
そこまでじゃなくても、玲緒奈を自転車に乗せて信号無視をするとか、青信号を歩行者が渡ろうとしてるのにスピードを落とさず突っ切ろうとするとか、一時停止を無視して歩行者も自転車も止まらせて強引に路地から出てくるとか、僕がそんなことをしてて、沙奈子や千早ちゃんや大希くんや結人くんが僕を信頼してくれるのか?。って考えたらね。
無理だよね。間違いなく僕の言葉になんてまともに耳を傾けてくれなくなるとしか思わない。そうやって、ちょっと目先の楽をしようとしたり先を急ごうとしたりなんて程度のことで沙奈子たちからの信頼を失うなんて、馬鹿馬鹿しすぎるよ。その程度の『我慢』もできない大人が、子供に我慢を強いるとか、本当に笑えない冗談だ。
だから僕は、そういうことをしないように心掛けるし、ついうっかりしてしまった時には自分を言い訳で正当化しないようにしたいと思うんだ。
それが、『沙奈子が僕や絵里奈に反抗しなくて済む理由』を作ってるのは間違いない。『反抗させない』じゃないんだ。『反抗しなきゃならない理由を作らない』なんだよ。反抗せずにいられない理由を作っておいてそれを力で抑えつけるとか、不合理に過ぎると思う。力で抑えつけるのは、力関係が逆転したら途端に破綻するのなんて分かりやすいと思うのに、自分を利口だと思ってる大人が気付かないのが理解できない。
それって結局、自分が見たいものしか見てないってことなんだろうな。そしてそういうのが、
『自分は酒を飲んで運転しても事故なんか起こさない』
っていう根拠のない思い込みに繋がる気がする。




