千八百二十四 玲緒奈編 「傍にいたいと思って」
六月二十五日。金曜日。晴れ。
『沙奈子さんが授業中にすごく眠そうにしているんですが、お家で何かありましたか?』
学校からそんな電話が掛かってきたけど、僕は別に慌てなかった。沙奈子がドレス作りのために睡眠時間を削ってたのを知ってたから。二階のリビングの隣の和室で、夜の十二時過ぎまで起きて作業してたんだ。それまでは十時過ぎには寝てたんだけどね。
今時、中学生でもそのくらいの時間まで起きてるのは珍しくないのかもしれない。むしろ、一日八時間も寝てる方が少数派なのかもしれない。でも、目覚ましとかに頼らなくても自然と起きられるのが、それくらいなんだ。ということは、体がそれだけの睡眠を必要としてるんだって僕たちは考えた。
だから家族揃って十時くらいには寝るようにしてる。それが当たり前になってるから。そのくらいの時間には眠たくなるんだ。
僕と絵里奈も、今ではもう六時間くらいはまとめて寝られるようになった。夜中十二時過ぎくらいに一度はおむつの交換とミルクが必要だけど、それが終われば後はたまに夜泣きをするくらいだ。ちなみに夜中のおむつ交換とミルクと夜泣きの対応は僕の役目だ。僕がやった方が玲緒奈がぐずらないから、それが一番なんだよ。絵里奈に任せて僕は寝てる形にしても、玲緒奈がぐずったら結局は僕も起きることになるから、最初からそうした方が早い。
土曜日から水曜日まで、そうして僕が玲緒奈のおむつを替えてミルクをあげてると沙奈子も作業を終わらせて、トイレに行って自分の机のライトを消して、リビングに戻ってくるという状態だった。
それから、玲緒奈がミルクを飲んでる様子を僕と一緒に眺めて、僕が玲緒奈を寝かしつけてる間に、沙奈子も寝るんだ。
でも、新作のドレスの発表を終えた木曜日からは、また、十時過ぎには寝るようになったけどね。だから今日は、授業中に居眠りをすることもなかったって。
だから何も心配してない。千早ちゃんや大希くんや結人くんと一緒に三階で過ごしてる以外は、沙奈子はずっと、二階にいる。基本的にドレスを作ってることが多いけど、玲緒奈が起きてる間はカーテンも開けて、お互いの姿を見えるようにしてる。生活サイクルは、ほとんど把握できてる。
一人になりたければ三階や一階にいればいいのに、沙奈子はそうしない。彼女は僕たちと一緒にいることを望んでくれてる。
そうやって、傍にいたいと思ってもらえる家族でいられてることを、僕は誇りたい。
沙奈子のすべてをひっくるめて受け止められてる実感があるんだ。




