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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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十八 沙奈子編 「遅滞」

実は沙奈子の詳しい検査結果が分かるのは来週だったけど、実際には今日結果が分かった検査でも大体のことは分かるしそこには何の問題も見られなかったから、異常はないと見ていいと言われたのだった。


検査を終えて、スーパーで紙おむつを買って、部屋に戻ってきて寛いでいた僕と沙奈子は、おねしょのことがほぼ解決したのでほっとしていた。4年生になっておねしょだなんてどうしたらいいんだろうと思ってたけど、他にもそういう人が身近にいるんだと思ったらすごく気が楽になった。


沙奈子のおねしょのことは、もう、すぐに収まることだとは考えないことにした。人にはあまり言えないかもしれないけど、彼女が辛い経験をしてきたことを考えたら、そういうことがあっても仕方ないと思うことにした。何年かかったっていい。彼女の心の傷みたいなのが本当に癒えたらその時に治るんだと考えれば、むしろ僕にとっても励みになるかも知れない。


取り敢えず今夜からはこの紙おむつを使えば布団を汚す心配はしなくてよくなるはずだから、それだけでも彼女にとっても、僕に対する負い目みたいなのが全然違うだろう。


「おむつなんて恥ずかしいかも知れないけど、友達も使ってるって思ったら大丈夫かな?」


と、沙奈子に聞いてみる。すると彼女は、少し恥ずかしそうにはしてたけどしっかりと頷いた。


よし、それじゃもうこの話はお終いだ。あんまりうじうじと考えてたらきっとイライラしてしまう。それは僕にとっても彼女にとっても良くない。修学旅行の事とかは、それまでに治らなかったらまた考える。


とまあ、問題に一区切りがついたことで思い出したんだけど、そう言えば今日から沙奈子は夏休みなんだよな。


「どうする?。今から宿題できるかな?」


せっかくの夏休みの初日にはヤボかもしれないけど、僕はそう聞いてみた。すると彼女はためらうことなく頷いた。


本当にいい子だよな。怖いくらいにいい子だと思う。だけどそういう話をさておいても宿題はさっさと片付けた方が楽なのは僕も知ってたから、協力することにしたのだった。協力というのは実は、いわゆる夏休みのプリントというやつの丸点けを、今は保護者がすることになってるそうなのだ。つまり子供の勉強を親が積極的に見てあげるようにっていうことらしいけど、普通の親だとひょっとしたら大変かもしれないと思った。


宿題は他に、定番の自由研究に、絵日記二枚、読書感想文一枚、それと歯磨きチェックシートだった。歯磨きについては、歯医者でも口腔ケアのことを言われてたからちゃんとできると思う。さっそく今日の朝の分も沙奈子が色鉛筆で塗りつぶした。夏休み、毎日、朝晩の分の魚に色を付けていくという形のチェックシートだった。完成すればカラフルな魚が泳ぐ水族館の絵になるという感じのやつだ。


ただ、彼女は最初に魚を自分の好きな水色で塗った。水の中の魚を水色でとなると正直どうかと思ったけど、子供の感性に口出しするのもヤボってものか。


チェックシートの次に沙奈子はプリントに取り掛かった。15枚の用紙の裏表に問題が書かれてて、全部で30枚分。毎日一枚ずつやっていけば余裕で終わるというやつだった。沙奈子はどんなペースでするだろう。


と思ったら、彼女はどんどんプリントを片付けて行って、結局、二時間かけて10枚分を終わらせたのだった。あと残り、20枚分。この調子でやったら3日で片付くな。


と思ったけど、丸点けをしたら、結構間違っていた。しかも、問題のプリントと一緒に綴じられた答えを見ながら書くことも結構多かった。


分かってはいたけれど、彼女は丸二年間学校に通ってなかったから、実際のところ学力の面ではかなり遅れていたのだ。これまでは正直、沙奈子との関係をどう築くかってことばかり、いや、それどころか果たしてうまくやっていけるのかどうかを手探りする状態だったばかりで僕もそれどころじゃなかったから気にしないようにしてきたものの、これは現実的に見てかなり深刻な問題だと感じたのだった。


そこで僕は、ふと100均に子供用のドリルが売ってたのを思い出した。専門的なしっかりしたのを買っても良かったけど、まずは彼女が実際にどの程度のことができるのか確認したいと思ったから、手軽なので様子を見てみようと思った。


「今から100均に行こうと思うけど、一緒に行く?」


僕がそう聞くと、沙奈子はもう当たり前のように頷いた。本当に僕と一緒にいたいと思ってくれてるんだと改めて感じる。何しろ僕は、沙奈子と同じ年の頃にはもう、親と一緒にいるのが嫌になり始めてたから…。


まあそれはさておき、そう言えばさっき大型スーパーに寄ったのは洗剤とかの日用品を買うのも目的だったのを思い出して、改めて100均で探すことにした。ついでに、沙奈子のおねしょのことが気になってすっかり忘れてた僕の帽子も買わなくちゃ。


一番暑い時間帯は過ぎたとはいえ、まだまだ日光が強い中で出掛けるのはさすがにちょっと覚悟が要った。もっと夕方になってからでもよかったかなと思ったりもしたけど、まあいいや。


沙奈子にはちゃんと帽子をかぶってもらって、半分凍らせたミネラルウォーターのペットボトルを持って自転車に乗って二人で出掛ける。


10分ほどの移動だったけど、やっぱり帽子なしだときついかな。信号待ちの度に水を飲んで、沙奈子にも水を飲むのを促して、乗り切った。冷房の効いた店内はまるでオアシスのように思えた。そのオアシスの中で、今日も、僕と沙奈子のささやかな宝探しごっこが始まった。


「今日は、僕の麦わら帽子と、食器用の洗剤と、食器洗いのスポンジと、ちょっと外出する時用のサンダルと、鉛筆と、赤鉛筆と、僕用のレインコートと、沙奈子の勉強で使うドリルを探すぞ」


まずは僕用の麦わら帽子をカゴに入れてもらい、食器用洗剤とスポンジもカゴに入れてもらい、ちょっと買い物に程度の時に使うサンダルは僕のと沙奈子のとをカゴに入れ、ついでとして買い置きしておこうと思った鉛筆と赤鉛筆、大人用のレインコートもカゴに入れた。そして、子供用のドリルや、大人の脳トレに使うドリルとかが並べられたコーナーへとやってきた。


「沙奈子、僕と一緒だったら勉強できる?」


彼女の目を見て、そう聞いてみた。すると彼女は、思いのほか嬉しそうに頷いた。僕と一緒にというのが良かったのかもしれない。ここで嫌がられたら本当に大変だと思ったけど、もしかしたら彼女は、例え勉強であっても自分の相手をしてくれる人がいるのが嬉しいのかもしれない。もっとも、そういう理由はそんなに重要じゃなくて、本人にある程度の意欲がある時にやるのが大事だと僕も考えていた。だからこれは勉強の遅れを取り戻すチャンスなのだ。


改めて陳列棚を見るとそこには、ほんとの幼児用のドリルから、小学生向けのドリルまでが色々と揃っていた。一応、ひらがなカタカナは分かってるようなのでそこは飛ばして、1年生から4年生までの、国語と算数のドリルを一通りカゴへと放り込んだ。これで、彼女がどこまでできて、どこからできないのかをまず確かめようと思う。


会計を済ました僕は早速、買ったばかりの麦わら帽子をかぶり、沙奈子と共に家路を急ぐために、灼熱の世界へと飛び出したのだった。


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