千七百九十五 玲緒奈編 「ぽ!、ぽ!、ぷあーっ!!」
五月二十七日。木曜日。雨。
今日はまた強い雨になった。
昨日、打ち合わせした仕事の納期がちょっと厳しかったから、今日も、玲緒奈が満足するまで相手してあげられなかった。
「ごめんね」
と言いながら絵里奈に預けると、
「は~い♡ 玲緒奈ちゃ~ん、今度はママがお相手しますよ~♡」
と言いながら布団におろして、いつもの『玲緒奈キック』を受け止める準備をした。
最初はいつも通りに『けりけりけりけりっ!』ってしてたそうなんだけど、でも不意に、足を布団に押し付けて、「ふ~む!」って力んだかと思うと、その反動で玲緒奈の体が上にずり上がったんだって。しかもその瞬間、
「!?」
って玲緒奈がハッとした表情になって、それから同じように足を布団に押し付けて、「ふんっ、ふんっ!」とばかりにずり上がって行って。
「背面ずり這いだ!」
「え?」
絵里奈が声を上げたことで僕も思わず振り向いて、玲緒奈が布団からはみ出して『背面ずり這い』でぐんぐん進んでいくのを目撃した。
玲緒奈はその新しい感覚に興奮してるのか、「ふっほ!、ふっほ!」って声を上げながらずりずり進撃する。
「すごい!、すごい!」
僕も思わず手を叩いて感心してしまった。するとますます興奮したのか、
「ぷあーっ!」
って玲緒奈が絶叫して。さらに、背面ずり這いを終えてからも、
「ふおっ!、ふおっ!。ぷぷぷーっ!」
手足をばたばたさせながら、雄叫びを上げてた。
もうこの時点で沙奈子とは全然違う、すごく『おてんば』な女の子になりそうだっていう予感しかない。
「玲緒奈ちゃん、すごかったね~♡」
絵里奈が満面の笑顔で玲緒奈を抱き上げた時にも、
「ぽ!、ぽ!、ぷあーっ!!」
って感じで大興奮。自力でそうやって移動できたことがよっぽど新鮮だったんだろうな。
「下まで聞こえてきたんだけど、何事?」
玲那が一階への階段のところから顔を覗かせて、さらに、
「大丈夫…?」
沙奈子まで三階への階段のところから、目隠しのカーテンを避けて顔を覗かせて聞いてきた。しかも、沙奈子の後ろには、千早ちゃんと大希くんの姿まで。
「玲緒奈がね、背面ずり這いしたんだよ!」
絵里奈が玲緒奈を抱いたまま、嬉しそうに告げる。
「マジか!?」
「すごい……!」
「え!、すごいじゃん!」
「へーっ!」
玲那と沙奈子と千早ちゃんと大希くんが、笑顔で応えてくれた。結人くんだけは興味ないって感じで三階に残ってたけど、実は少しだけ、見にいこうかどうしようか迷ってたみたいな仕草をしたらしい。だけど、そういうのを気にしてるって悟られるのが照れくさいみたいで。




