千七百九十一 玲緒奈編 「だからあの頃の私は」
五月二十三日。日曜日。晴れ。
今日は久しぶりに晴れた。
『他人のイジメ方そのものを知らない』
まさにその通りだと思う。イチコさんも大希くんも、『他人を罵って暴力を振るって見下して嘲って貶して蔑む』っていう感覚をそもそも持ってない。他人に対して憤ることはあっても、それが、『罵って暴力を振るって見下して嘲って貶して蔑む』ってことに直結しないんだ。
『イジメ方を知らない』んだよ。
それに対して、千早ちゃんは、
「いや~、イジメ方なんていくらでも思い付くよ。だってお姉ちゃんに散々やられたからね。それをそのまんま気に入らない相手にやりゃそれでいいんだしさ」
って言ってた。まさにそういうことなんだろうな。
だけど、今の千早ちゃんは、他人をイジメることを良しとしない。『イジメられる側が悪い』とか言って『他人の所為』にして、イジメを正当化しない。だって、彼女にはそれをしなきゃいけない理由がないから。
「イジメやる奴ってさ、要するに誰かをイジメることでストレス解消してるだけじゃん。イジメられる方が悪いってのがマジなら、なんでイジメないのがいんの?。なんで周りにいる奴ら全員でやらないの?。『家庭に問題がある奴が全員犯罪者になるわけじゃない』ってよく言うじゃん。それと同じだって私も思う。イジメられる方がなんか原因作ってたって、イジメない奴はイジメないんだよ。
そりゃまあ、ビビッて手を出せないってのもいるだろうけどさ。でも、その、『ビビッて手を出せない』のは、自分のしたことが後からなんか跳ね返ってきたりするかもって想像力があるからやらないってことじゃないの?。てことは、イジメる奴はそもそも想像力が足りないってことじゃんよ。実際、イジメで事件がニュースになったりした時に自分がどんな目に遭うか、想像できてないじゃん。想像できないからやるんだよね?。でも、イジメたことでどうなるかってのを想像できる奴はビビッてやらない。ビビッてやらない方が完全に正解じゃん。
まあ、ヒロは、ビビるとかより前にやらねーけど。イジメるって頭がねーんだよ」
大希くんをいつも間近で見てる千早ちゃんもそう感じてる。沙奈子に対して辛く当たってた千早ちゃん自身の実感だ。そして彼女は、沙奈子に辛く当たってた自分を正当化しない。
「あの頃の私はマジどうかしてた。頭がおかしかった。イカれてたんだよ。沙奈は、愛想よくないから誤解されやすいけど、すっげーいい子じゃん。それをイジメるとか、頭がおかしい奴しかしねーよ。だからあの頃の私は頭がおかしかったんだ」




