千七百九十 玲緒奈編 「他人のイジメ方そのものを」
五月二十二日。土曜日。曇り。
玲那は言う。
「漫画やアニメとかでさ、主人公の周りの人達が、『他人を敬う姿勢』を見せるだけで『優しい世界』とか言われたりするんだけどさ。それっておかしいよね?。『他人を敬う』なんて、本来、『人として当たり前の振る舞い』なんでしょ?。その『人として当たり前の振る舞い』をするだけでなんで『優しい世界』になんの?。そう感じるってことは、『他人を敬うという人として当たり前の振る舞い』をしてる人が現実には少ないってことだよね?。じゃあなんで、『他人を敬うという人として当たり前の振る舞い』をしてる人がそんなに少ないの?。ちゃんと躾けられてる人だったら、『他人を敬うという人として当たり前の振る舞い』ができるんじゃないの?。おかしいじゃん」
って。
なるほど確かにそうだ。本来、『他人を敬うという人として当たり前の振る舞い』ができて当然のところをそれができてる人が少ないから、『優しい世界』なんて表現が成立する。現実の世界で『他人を敬うという人として当たり前の振る舞い』をする人がほとんどだったら、なにもわざわざ『優しい世界』なんて言い方をする必要もないよね?。
だったら、どうして、『他人を敬うという人として当たり前の振る舞い』ができる人がこんなに少ないの?。それどころか、『どうすることが他人を敬うことになるのか分からない』なんて言う人さえいるよね?。それっておかしくない?。その人の親がそれを教えてこなかったってことだよね?。
だから僕は、『他人を敬うという人として当たり前の振る舞い』ができるように、その手本を沙奈子や玲緒奈に示してあげたいんだ。沙奈子や玲緒奈を『一人の人として敬う』ことで、
『こうするのが、他人を敬うってことだよ』
って教えてあげたいんだ。そうすれば少なくとも、沙奈子や玲緒奈は、どうすれば他人を敬うことになるのかを知ることができるんじゃないかな。イチコさんや大希くんは、そうやって教わってきたそうだ。山仁さんが、二人を人として敬ってきたから、ただの知識じゃなく感覚として他人を敬うことができてるんだ。だから二人は、他人を怒鳴ったりしないし罵ったりしないし暴力も振るわないし馬鹿にしないし見下さないし貶さない。ましてや、イジメるなんて、有り得ない。
そんな風にしないことの方が、二人にとっては『普通』なんだよ。親である山仁さんが二人が赤ん坊の時からずっとそう接してきたから。他人のイジメ方そのものをイチコさんも大希くんも知らないんだ。




