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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千七百八十六 玲緒奈編 「憎しみという他者への関心」

五月十八日。火曜日。曇りのち雨。




僕たちは、自分たちが幸せになるためにこそ、『当たり前』と信じられてきたものを疑うからこそ、『自分より劣ってる相手は見下していい』とか『強者は弱者を虐げていい』という考えを疑うし、それを疑えばこそ、


『弱者は守られるべきという考えを盾にして強者として振る舞う』


なんてことも正しいとは思えないんだ。


だからこそ、沙奈子は、ううん、沙奈子だけじゃないな。千早ちはやちゃんも、大希ひろきくんも、今では結人ゆうとくんも、


『教師の体罰は禁止されてる』


とか、


『少年法で守られてる』


とか、そういうことを盾にして、横柄に横暴に振る舞ったりしないんだ。


『生徒が教師の出身大学を理由に馬鹿にする』なんて、『劣ってる相手は見下していい』とか『強者は弱者を虐げていい』という考えそのものだよね?。


だけど、沙奈子も千早ちゃんも大希くんも結人くんも、教師を馬鹿にしたりしないし、ましてや、教師が体罰できないからって調子に乗ったりしない。だって、その必要がそもそもないから。


もちろん、何か失敗することはあると思うし、沙奈子や結人くんは愛想よくできないから、何を考えているか分かり難かったり生意気なように見えたりもすると思う。でもそこに悪意はないし、教師を馬鹿にする意図もない。特に今の結人くんは、大人への不信感への裏返しで、『無関心の状態』になってるんじゃないかな。僕と一緒に暮らし始めた頃から沙奈子が辿った段階を、今、結人くんが辿ってるんだと思う。


僕にも覚えがある。僕が他人に対して無関心だったのは、結局、大人をはじめとした他人への不信感がものすごく強かったから。僕の場合は、直接的な虐待がなかったこともあって『憎しみ』はそれほどじゃなかった。だから無関心という形で他人への不信感が表に出た。結人くんも、今、彼を虐げる大人が身近にいないことで憎しみが緩和されて、大人への不信感は、無関心という形に変化したんじゃないかな。


そう。彼が、他人、特に大人と関わる時には、『憎しみという他者への関心』が反応の基本になってた気がする。だけど、その憎しみが緩和されてしまったら、同時に、『関心』も弱くなってしまった。


沙奈子の場合は、『憎しみ』というよりは『恐怖』だったのかな。『他者への恐怖』が、結果として『他者への関心』になってたのかも。


『この人は、私に怖いことをしないか? 痛いことをしないか? 苦しいことをしないか?』


っていうことが、沙奈子にとっての他者への関心だったんじゃないのかな。だけど、僕と一緒に暮らし始めたことで『怖いこと』『痛いこと』『苦しいこと』をしない人もいるというのが実感できて意識しなくなって、他人への関心が薄れて、反応が薄くなったんだろうな。って気がしてるんだ。



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