千七百八十三 玲緒奈編 「自分の両親がまさにそれで」
五月十五日。土曜日。曇り。
世の中にはどうして他人を見下したり貶したり嘲ったりする人がこんなに多いのか、ずっと疑問に思ってた。そんなことをしたら相手から疎まれてトラブルを招く原因になるのに、どうしてわざわざ自分から不幸を招くのか。
それは結局、親が自分の子供を見下してたからなんだろうなって、玲緒奈を見ててすごく思う。
確かに子供は大人に比べてできることは少ない。だけど、『できることが少ないから見下す』ってことを子供に対してやってるから、子供もそれを『当たり前のこと』として学習しちゃうんじゃないの?。イチコさんや大希くんがそれをしないのは、親である山仁さんが二人を見下さなかったからなんだっていうのが、今は実感できる。
沙奈子も玲緒奈も、僕よりはいろんなことができるわけじゃない。だけどそれを理由に見下すなんて、意味が分からない。『自分より劣ってる相手は見下していい』っていうのを、自分の子供に対して実践する意味が分からないんだ。そんなことをすれば、子供も、『相手の自分より劣ってる部分を探し出してでも見下そうとする』ようになる気しかしない。
『親を尊敬しない子供』も、結局、親の『劣ってる部分』を見付け出すことで、『見下していい』って考えるからじゃないの?。それでも、子供よりは上なんだろうけど、今度は、他人と比べて劣ってる(ように見える)部分を探し出してでも見下すんじゃないかな。収入とか、容姿とか、学歴とか、地位とかで。
『それが本能というものだ!』っていう人もいるかもしれないけど、それ自体がただの思い込みかもしれないって、どうして思わないの?。
なにより、人間は、『本能』というものを否定しようとしてきたんじゃないの?。人間以外の動物なら別に珍しくもない、『乱交形の生殖』とか、『子孫を残そうとするのが当たり前』という感覚とか、そういうのを必死で否定しようとしてるよね?。だったら、『他者を見下そうとするのは本能だ!』で済まそうとするのはおかしいんじゃないかな。
僕は、絵里奈以外の女性に対してはそういう気分になれないし、たとえそういう気分になれたとしても絵里奈を悲しませてまで他の女性ととは思わないし、沙奈子や玲緒奈に対しては、『結婚しろ』『孫の顔を見せろ』とは言うつもりもないんだ。だからこそ、『他者を見下そうとするのは本能だ!』とか言い訳までして、沙奈子や玲緒奈を見下そうとは思わないし、二人の前で誰かを見下して罵って貶そうとも思わないんだ。そんなことを正当化したいとは思わないんだよ。
自分の両親がまさにそれで失敗したからね。




