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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百七十八 玲那編 「共依存」

買い物が終わって僕たちは家に帰った。沙奈子は、玲那と絵里奈に服を選んでもらって嬉しかったのか、すごく上機嫌だった。タグを外した服を大事そうに引き出しに…、仕舞えなかった。服が多くなってしまって入りきらなかった。仕方なく夏物の服を出してそれは押入れの方に片付けた。押入れの方はまだ余裕があるから、今度は衣装ケースを買ってきてそこに入れるようにようにしないといけないと思った。こうやって荷物が増えていくんだなとも感じた。


そんなこんなも結構楽しかった。きゃあきゃあと声を上げながらあれこれしてる沙奈子たちを見てるだけで、満たされる。


夕食は、また手作り餃子になった。沙奈子のリクエストだった。餃子を作るのが楽しかったみたいだ。沙奈子と絵里奈で作った餃子の具を、四人で皮に包んで餃子にしていく。前回は慣れてなかったから作るのに夢中になり過ぎて無口になってしまったけど、今回はおしゃべりする余裕があった。


だけど今度はおしゃべりに夢中になってしまって時間がかかってしまった。でも作り始めたのが早かったから、ちょうどいい時間になった。


それを、キッチンのコンロとカセットコンロ両方を使ってどんどん焼いていく。キッチンの方は沙奈子が、カセットコンロの方は絵里奈が担当した。僕と玲那は焼けた餃子をお皿に盛っていく係だった。


こうしてまたお皿二枚に大盛りの餃子が出来上がった。


「できた~!」


沙奈子がテンション高くそう言った。やり遂げたって感じの笑顔だった。


それをみんなで食べた。すごく美味しかった。みんなで作ったっていうのがやっぱり楽しかった。


夕食の後はお風呂だ。今日は絵里奈と一緒に入ることになった。すると玲那は僕の膝に座ってきた。


「おと~さん」


甘えた声でそう言ってくる。そんな玲那を、沙奈子にしたみたいに抱き締めてあげた。彼女が横を向いた時にふと見たら、少し涙が滲んでるようにも見えた。まだ気持ちが高ぶってしまうのかもしれないって気がした。僕が玲那を抱き締めてあげてても、絵里奈はもう何も言わなかった。玲那が僕とイチャイチャしたくてそうしてるんじゃないってことが分かったらしかった。


玲那がお風呂に入って、最後に僕がお風呂に入った。お風呂の後は、沙奈子を膝に座らせて、また莉奈の服作りになった。日記は僕がお風呂に入ってる間に書いていた。


ところで、日記といえば、先週の日記で『お父さんとお母さんとれいなおねえちゃんと私とで水ぞくかんへ行きました』と書かれてたことに対して水谷先生のコメントが、


『お母さんと一緒に水族館へ行けたんですか?。それは良かったですね!』


となってたことが、僕は少し気になってた。沙奈子が書いたお母さんというのを、水谷先生はどう解釈したんだろう?。本当のお母さんが会いに来たのかと思ったんだろうか。それとも、あえてそういうことについて深く考えずに日記の内容に応じたコメントを付けただけなんだろうか。それについて何も聞かれたりしてないから、よく分からなかった。


沙奈子も、先生にお母さんのことについて何か聞かれたみたいなことは言ってなかった。12月にまた個人懇談があるらしいから、もしかするとその時に何か聞かれるかも知れない。もし聞かれた場合、どう答えようかと思った。


たぶん、正直に、僕の友達の女性のことを沙奈子が『お母さん』と呼んでると答えることになると思う。変に誤魔化そうとすればかえって誤解が生まれるかも知れないし。それで内縁関係とか思われたとしても、それは構わない。世間一般で言う内縁関係とはかなり違う気もするけど、他人にはそうとしか見えないだろうなとは僕も思ってる。


ただ、本当に家族としてやっていくなら、やっぱりいずれは考えないといけないことだとも、改めて思った。僕は、結婚することについてこだわってはいないけど、その一方で、結婚しないことについてもそんなにこだわってる訳じゃない。もし、絵里奈がOKしてくれるなら、沙奈子のためにそうしてくれるというのなら、婚姻届けを出してもいいと思えてた。


玲那と絵里奈は、僕のことを好きだと言ってくれてる。それが、恋人になりたいとか結婚したいとかっていう意味での『好き』じゃないことは、もう僕にも分かってる。二人が好きなのは、あくまで沙奈子のことを大切に思ってる僕なんだ。


普通の男性は、そういうのを嫌がるかも知れない。まるで沙奈子とセットでないと価値がないと思われてるように感じるかも知れない。だけど僕は、むしろそう思われたいって感じてる。沙奈子のことを大切に思う僕こそが、僕自身にとっても価値があることのように感じてる。


僕は、自分自身に価値があるなんて自分でも思えなかった。ただ死んでないだけで生きている僕にそんなものがあるはずがないって自分でも思ってた。だから沙奈子とセットになってようやく価値が出たのなら、その方が納得できる。分かりやすいと思う。


変な話だけど、僕は、自分にそういうのがなかったことに、今では感謝したいとさえ思ってる。自分に価値がないから、逆に沙奈子を受け入れることができたんだって気がしてる。


もし変に自分に価値があるとか思ってたら、沙奈子が来たことでそれが損なわれるとか考えてしまってたかもしれないって思うんだ。世間では独身なのに子供がいることを『こぶ付き』とか言ってまるで悪いことのように見る風潮があると思う。


僕が自分に価値があるとか考えてたら、沙奈子がいることでそれが下がってしまうように考えてしまったかも知れないことが怖いんだ。沙奈子のせいで自分の価値が下がってしまうなんて考えてしまうことが怖いんだ。僕はそんな人間にはなりたくない。


それだったらいっそ、沙奈子がいない僕には価値がないって思ってた方がずっとマシだ。


たぶん僕は、沙奈子に依存してるんだと思う。沙奈子がいるから僕がいられるっていう状態になってるんだと思う。だけど僕はそれでいい。沙奈子を傷付けたり苦しめたりするような奴になってしまうよりずっといい。


そういう風に考えると、玲那や絵里奈もきっとそうなんだろうなって思えてくる。沙奈子のことを大切に思える自分ってものが今の二人には必要なんじゃないかな。


その上で僕たちは、それぞれの欠けてる部分がちょうど上手くハマってるんだろうっていう気がする。お父さんとお母さんが欲しかった沙奈子。自分を必要としてくれる誰かが欲しかった僕。理想のお父さんや家族が欲しかった玲那。自分の愛情を注ぐ相手が欲しかった絵里奈。そういう風に考えたらすごく分かりやすい組み合わせだよな。


玲那の男性への恐怖感とか、絵里奈の人形への愛情とかは、そういうのとも絡んでるんじゃないのかな。


服作りに夢中になってる沙奈子と、沙奈子に夢中になってる二人を見ながら、そんなことを考えてたのだった。


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