千七百五十四 玲緒奈編 「ホント言うと今でも」
四月十六日。金曜日。雨のち曇り。
僕は、決して、学校を、
『命を懸けてまでいかなくちゃいけないところ』
だなんて思ってない。命の危険を感じるようなら、『学校に行くくらいなら死にたい』って考えるようなら、行かなくていいと思う。
『そこで逃げるような奴はどこに行っても逃げることになる』
みたいな、詳しい事情も知らないのに好き勝手なことを言う人の意見なんて聞く必要はないと思うんだ。
当事者が命の危険まで感じるようなら、逃げればいいと僕は思う。
それと同時に、自分の子供が誰かをイジメてるのに気付かない親というのが、僕には理解できない。
とは言え、沙奈子と一緒に暮らし始める前の僕だと、もしかすると気付かなかったかもしれないとも感じてしまうのも事実。『面倒なことは見たくない。知りたくない』って考えてしまっていたかもしれないから。
だけど今は、むしろ逆なんだ。
『面倒だからって目を背けていたら後でもっと大変なことになる』
のが分かるんだ。
沙奈子が、千早ちゃんにきつく当たられていた時のこともそうだった。沙奈子が『学校に行きたくない』って言ってくれたのを相談したら、学校側もちゃんと対応してくれて、それで結果として沙奈子も千早ちゃんも救われて、二人は今、とてもいい友達になれている。
僕が沙奈子の言葉に耳を傾けたこと、そして、学校が僕や沙奈子の言葉に耳を傾けてくれたことが、この結果を生んだ。
これについて、千早ちゃん自身が言ってる。
「あの頃の私は、自分のやってることがよくないことだなんてこれっぽっちも思ってなかったよ。だって、お母さんやお姉ちゃんがやってるのと同じことをしてるだけだったしさ。それでなんで『よくないこと』だなんて気付けんの?。親が率先してやってることだしさ。いまだに、お母さんからは、私やお姉ちゃんたちを殴ってたことを謝ってもらってないよ。殴らなくなったから取り敢えず蒸し返すのもヤブヘビになりそうだし黙ってるだけだよ。ホント言うと今でも恨んでる。『生んでもらった』とか『育ててもらった』とか、冗談じゃない。『できたから仕方なく』生んで、『死なせたら面倒なことになるから』死なせなかっただけでしょ?。それで偉そうなことを言うとか、『ふざけんな!』だよ」
それを傍で聞いてた結人くんも、すごく神妙な顔つきになってたのが印象に残ってる。
あの頃の千早ちゃんは、荒んでた。荒んでたから沙奈子にきつく当たってた。だけど、千早ちゃんが荒んでることに、千早ちゃんのお母さんは気付いてなかった。
それがすごく残念に思う。




