千七百五十二 玲緒奈編 「私も責任者の一人」
四月十四日。水曜日。曇り。
僕と沙奈子が以前住んでいたアパートの住人たちにも、『新型コロナウイルス感染症』の影響を大きく受けてる人も出てると聞いて、改めて大変なことが起こってるんだと思わされた。
考えてみれば、『SANA』のドレスの量産品の製造を、日本国内の企業に委託しないといけなくなったのも、大変な影響なんだし。
星谷さんはこれについて、
「正直申し上げて、楽観視できる状況ではないでしょう。コストが跳ね上がり、純利益がほぼ失われました。一方、そちらの企業に製造を委託した使い捨てマスクについては需要の高まりもあり、想定以上に収益を上げていることに加え、当面の間は内部留保によって補填も可能ですが、この状況が長く続けば、従業員の給与カットの可能性も否定できません。ベトナムの企業に対して生産を委託した方の使い捨てマスクについても『SANA』としての発注としておけばそちらの収益も組み込むことができたのですが、私の判断ミスです。申し訳ありません」
と、絵里奈とのビデオ通話での会議で頭を下げてきた。それに対して絵里奈は、
「いえいえ、本当なら私も考えないといけないのに、詳しくないからと星谷さんに丸投げした私にも責任があります。だから気にしないでください。それに、まさかこんな状況になるなんて、ほとんど誰も予想できなかったんじゃないですか?。その中でも星谷さんはかなり備えができてた方だと思います。それがなかったら、委託先をこんなにスムーズに切り替えることもできなくて、注文は入ってるのに品物を用意できなくて、とっくに行き詰ってたかもしれない。下手したら詐欺騒ぎになってたかも。そういうのが回避できただけでもありがたいです。感謝してます。
とにかく、会社の運営については、私も責任者の一人なんですから、星谷さんだけに責任があるわけじゃありません」
きっぱりとそう言い切った。
「ありがとうございます。そうおっしゃっていただけると救われます。だからこそ、皆さんの信頼に応えるべく、私はこれからもあらゆる手を尽くしていこうと思います。困難というものは、いつの世もどんな社会でも立ち塞がってくるものでしょう。それを嘆いているだけでは問題は解決しません。与えられた状況の中で、配られた手札の中で、最善の道を探るのが求められているのは、いつの世もどんな社会でも変わらないと私は考えます」
星谷さんも、力強く応えてくれる。その表情が、どこかホッとしてるようにも思えて、僕も安心したのだった。




