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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百七十五 玲那編 「カレー」

「おはよう」


沙奈子が目を覚まして、僕たちにそう言ってくれた。僕たちも笑顔で「おはよう」って返してた。その時の沙奈子の嬉しそうな顔が、たまらなく愛おしいって感じた。つくづくこの子が僕たちの中心なんだって実感した気がした。


みんなで朝食を終えて、いつも通りに掃除と洗濯をした。それ自体が楽しかった。家事が楽しいなんて、一人のままだったら、たぶん、一生思うことはなかったんじゃないかな。


掃除と洗濯を終わって沙奈子の朝の勉強も終わって、来週分の冷凍のお惣菜を受け取って、またみんなで買い物に出かけた。念のために荷物を積む用に僕の自転車を持って行った。


スーパーでは、玲那と絵里奈がそれぞれ自分用の座椅子を買った。裁縫用品売り場では、沙奈子の服作りの為に絵里奈がいろいろ買ってたみたいだった。食料品もいろいろ買い込んで、それから買い物のついでに喫茶店でお昼にした。僕はまたサンドイッチ、沙奈子はナポリタン、玲那もサンドイッチで、絵里奈はハンバーグを頼んだ。


みんなでこうして食べてるところを客観的に見ると、すっかり家族として馴染んだんじゃないかって気がする。


帰る時、さすがに座椅子二つはかさばって、自転車に乗せても少し大変だった。沙奈子は絵里奈に見てもらって、僕と玲那で荷物を支えながら押して帰った。


帰ってからは、コタツの周りに座椅子が三つ並んで、いかにも家族で住んでますっていう感じに見えた。室内干し用のハンガーラックは、洗濯物をまたベランダに干すことになったこともあって、玲那と絵里奈の着替えを吊るすためのものになってた。逆に僕の服はさらに着ないものを捨ててクローゼットのスペースを空けて、そこにも二人の服を吊るした。


でもこうしてみると、やっぱりこの部屋で四人で暮らすのは無理があるなっていうのを痛感した。だから昼から、沙奈子が勉強をしてる間も、それが終わってからまた服作りを始めてからも、スマホで部屋探しをした。だけどまだ、これという物件は見付からなかった。


ただ、生活っていう点で考えると無理があるこの部屋だけど、でも今、部屋が狭くて嫌かって言ったら別にそんなこともなかった。お互いの体が触れるくらいに常に近くにいるから、もしかすると広い家に移っても、僕たちは結局はみんなで一つの部屋に集まってくっついてるのかもしれない。


ああでも、そういうのって、浮かれてる最初のうちだけっていうのもありえるのかな。時間が経って熱が冷めてきたら、近すぎるのは今度は苦痛になってくるのかもしれないし、長く一緒にいるためにはそういうことも考えなきゃいけないのかもって思った。


何度もそういうことを考えて、早く引っ越しするためには妥協しなきゃいけないかなと思った後で、いやいやそれはやっぱりダメだと思い直して、時間は過ぎて行った。玲那と絵里奈が沙奈子の相手をしてくれるから、僕はこうやって物件探しに集中できてた。


だけど、玲那はせっかく座椅子を買ったのに、それはほとんど使わずに僕のすぐそばに座って体を寄せてきてた。嫌じゃないから別にいいけどさ。何かもったいない気もする。


夕食の用意をする時間になって、絵里奈が「今日はカレーにします」と言った。カレーか。うちのカレーと言えば、僕のものすごく適当なカレーを沙奈子は好きだと言ってくれてたのが、絵里奈のカレーを食べたらどうなるんだろうとちょっと心配になったりもした。


でもそれを心配しても仕方ないか。ちゃんとしたものが作れるなら、そっちの方がいいよな。なんて思ってる僕の前で、絵里奈が沙奈子に手伝ってもらいながらカレーを作り始めた。


正直言って、僕には何をやってるのかよく分からないことをいろいろしてた。それを見て、やっぱり僕のカレーの作り方はすごい手抜きだったんだなって思い知らされた。まあ別にそれも悪いことじゃないと思いつつも、それが普通だと沙奈子が思い込んでしまわないうちにちゃんとした作り方を教われるのは良かったとも思えた。


キッチンに立つ絵里奈と沙奈子の姿は、改めて母と娘って気がした。一方で玲那は、あまり手伝わないんだなっていうのも分かった。もっとも、キッチンが狭いから二人以上で立つのはかえって邪魔っていうのもあるとは思うけどね。


そんなこんなで出来上がったカレーをみんなで食べた。


「おいしい!」


沙奈子がそう声を上げた。僕も「美味しいね」って声が出た。でも本当に美味しい。僕が作るのとは全然違う。ちゃんと作ったらこれだけ美味しくなるんだって思い知らされた。そんな僕たちの様子を見て、絵里奈も嬉しそうに笑ってくれた。


夕食の後はお風呂だ。


「今日はれいなおねえちゃんと入る」


と沙奈子が言って、玲那が「ホント!?、ありがとう沙奈子ちゃん!」って喜んでた。


僕はコタツに入ってまた物件探しをしてた。敢えて地域を絞らずにどんなのがあるのかなって感じで見ると、これはいいなっていう物件は見付かった。地域を絞り過ぎてるのが大きなネックになってるんだなっていうのが改めて実感できてしまった。


「焦らずにじっくり探しましょう、いたるさん。私、今の感じでもすごく幸せですよ。みんなが近いのが温かくてすごくいいって思います」


絵里奈がそう言ってくれるのが嬉しい。もし、彼女が本当に僕の奥さんだったら、結婚っていうのも悪くないって思えた。って言うか、いずれそれも考えなきゃいけない気がする。この状態だと、世間では『内縁関係』ってことになるんだろうな。世間的にも絵里奈が本当に沙奈子のお母さんって言えるようになるためには、ちゃんと結婚とかする必要があるかもしれない。


ただまあそれも、焦らなくていいか。新しい家が見付かって、本格的にみんなで一緒に暮らし始めてから考えてもいいと思う。絵里奈だって別に僕と結婚したい訳じゃないんだもんな。


そんなことを考えてると沙奈子と玲那がお風呂から出て来た。それと入れ替わりに絵里奈がお風呂に入って、その後に僕が入った。


お風呂の後にはまた莉奈用の服作りが再開された。僕の膝に座って熱心に裁縫をしてる沙奈子と、沙奈子を見守ってくれる玲那と絵里奈と。その様子を見てるだけでも、全然退屈なんてしなかった。


10時を過ぎて沙奈子があくびをし始めたから、今日はここまでってことになった。布団を敷くと、寝る位置は大体もう決まった感じだった。沙奈子と絵里奈が一緒に寝て、僕と玲那が一緒に寝て。いつものおやすみのキスとお返しのキス。それに加えて何だか習慣になりそうな、絵里奈のおっぱいをもらう沙奈子。


それが沙奈子を満たしてくれてるのが実感できるから、僕ももう何も言わないでおこうと思った。言う必要もないと思った。いずれ沙奈子が本当に満たされて満足したら、必要なくなるって思える。だから今は必要なんだと思ったのだった。


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