千七百四十七 玲緒奈編 「本人にはどうしようも」
四月九日。金曜日。晴れ。
なんだかやけに寒いと思ったら、真冬並みの寒波が来てるらしい。だからエアコンで暖房してる。
男性が女性を『性的な目』で見てしまうことがある点について、女性が敢えて正直な気持ちを口にしないでいてくれたことで、今まで平穏でいられた部分はあるんじゃないかな。
特に、玲那や波多野さんは実際に性被害に遭ってるし、田上さんも、痴漢被害に遭ったことがある。そういう女性の本音としては。ってあるのを実感する。
でも、その上で、『気持ち悪い』と言われたって本人にはどうしようもないことだってあるよね。だから敢えて言わないでおくのが大事なこともあると思うんだ。
『言いたいことが何でも言える社会』ってことは、今まで敢えて口にしてこなかった本音でも言えるようになるってことだよね?。『言いたいけど、それを言ったら角が立つから今までは言わなかった本音』も。
『自分が思ったことをそのまま口にするけど、他人が思ったことを口にするのは許さない』なんて、ひどい『甘え』だよね。自分が、他人の気持ちとか無視して好き勝手言うのなら、自分も他人から嫌なことを言われるのは当然なんじゃないの?。
学校で、沙奈子に対して『埴輪』とか『ロボット』とか『陰キャ』とか『陰の者』とか言ってる子がいるっていうのは、僕にとってもすごく不快だよ。沙奈子が通う学校で基本的に『あだ名』が禁止されていることについては、僕はむしろ歓迎してる。『親しみを込めた愛称』っていう部分だけを見て『あだ名禁止なんてやりすぎだ!』って言う人は、『揶揄』や『侮蔑』を込めた『悪意としてのあだ名』が蔓延してることについては見て見ぬフリしてるよね。自分たちだけが楽しくいい気分になっていられたらいいって考えてるよね?。
そうやって、自分たちにばかりいいように考えるから、『言いたいことが言える社会』を理想郷みたいに言うんじゃないの?。
ちゃんと、いろんな角度で目線で視点で見て考えるのが、考えることができるのが、『大人』というものじゃないの?。
僕はそう思う。
名前も知らないような女性に対してさえ性的な目で見ることができてしまう、見てしまうことがある『男性の性』について理解してもらいたいなら、『自分ではどうしようもないこと』について馬鹿にしたり侮辱したりするのはやめた方がいいと思う。どうしてもそれがやめられないのなら、自分に対しても『気持ち悪い』と言われることも認めなきゃおかしいよ。
そして、僕のこの考え方を『気持ち悪い』と感じる人もいると思うし、そう感じること自体はやめさせられないとしても、それをそのまま口にするのなら、自分も面と向かって『気持ち悪い』と言われることがあるのを受け入れなきゃおかしいよね。




