千七百四十五 玲緒奈編 「そういう目で見られることに」
四月七日。水曜日。晴れ。
今日は、沙奈子の学校の入学式。二年生三年生は『自宅待機』という名の休みだし、そもそも臨時休校中だし。
せっかくの入学式がそういうことになってしまっているのは、僕も残念に思う。
でも同時に、こういうことが起こるのが『この世』ってものなんだって改めて思う。昔にも、ペストが大流行したり、スペイン風邪が大流行したりと、大変なことがあったよね。それがたまたま、今、起こっただけなんだと思う。
地震とか台風とかもそう。
今回の件については人為的なものだっていう話もちらほら聞かれたりするみたいだけど、僕にはそれが事実かどうかなんて確かめようもないからね。そういうのは、それと関われる人たちの間で話し合ってくれればいい。僕の力じゃどうしようもないっていう意味では、ただの『災害』だよ。
それでいて、ここまでのところ、僕たちの間では感染した人がいないから、何とか自衛はできてるのかな。
『SANA』の売り上げについても、むしろ増えてるし。
その一方で、僕の勤め先では、影響が出始めてるそうだ。予定されていた仕事がいくつも中止になったり延期されたりってことで。かと思うと、予定外の仕事が舞い込んだりということも。
そんなこともありつつ、僕が担当しているのはあくまで設計のための図面を起こす仕事だからか、今のところは大きな変更の指示はない。この先もそのままかどうかは、まったく分からないけど。
なんて世の中のあれこれには関係なく、玲緒奈は今日も元気だった。元気に僕の仕事の邪魔をしてくれてる。『こういうものだ』と、ルーチンに組み込んでしまえばどうということもない。クライアント側の急な仕様変更とかに比べれば、それこそ可愛いもんだよ。いったいいつ決まるのかさえ分からないクライアントのいざこざと違って、一時間とかそこらで満足したらやめてくれるし。
でも、この子が成長するにしたがって、いろいろ心配事も増えてくるだろうなとも思う。
玲那が話してたことについては、沙奈子や玲緒奈にとっても他人事じゃない。
絵里奈も言ってた。
「玲那の憤りは、女性としては本音ですね。好きでもない、好きになれそうにもない男性から『性的な目』で見られたり、いやらしい『妄想』とかされてるって考えるだけで本当に怖気が走ります。達さんが私に対してそういう気持ちになってくれるのは嬉しいんですけどね」
って。
男性でも、分かる人には分かるんじゃないかな。自分をそういう目で見られることに強い嫌悪感を覚えるというのは。




