千七百四十一 玲緒奈編 「お父さんと一緒にいるのは」
四月三日、土曜日。曇り。
子供に『人を人として敬う』という姿勢を学び取ってもらいたいと思うなら、親自身が、子供を『一人の人間として敬う』という姿勢を実際に見せることが一番確実だと思う。
ここで、
『なんで子供なんか敬わなきゃいけないんだ!。こんな何もできないような奴を!』
とか思うのなら、それは、
『自分より劣ってる相手は見下していい』
っていうのを学ばせることなんじゃないのかな。『自分より劣ってる相手は見下していい』という考えは、
『相手の劣っているところを見付け出してとにかく見下す』
っていう行動に繋がらないかな。いわゆる、
『マウントを取る』
みたいな行為をせずにいられない人は、そういうことなんじゃないのかな。『自分より劣ってる相手は見下していい』っていうのを、自分の親から学んだんじゃないのかな。
僕は、玲緒奈にそんな風になってほしくないから、彼女のことを『一人の人間として敬う』よ。
山仁さんは、イチコさんや大希くんのことを、生まれた時から、一人の人間として敬ってきたそうだ。そしてここで、
『どうすることが人を敬うことになるんだ!?』
みたいに言う人がいれば、その人はまさしく、自分の親から『人を敬う姿勢』というものを学んできてないってことだよね。
学んでないから、ちゃんと分かるまで教えてもらってないから、分からないんだよね?。
僕がこう言ってることも『マウントを取ろうとしてる!』って言う人がいるかもしれないけど、僕自身にはそのつもりはないんだけどね。自分の子供たちが他人を見下すような、他人を見下すことで自分を慰めるしかないような、そんな人になってほしくないから、どうすればいいのか考えてるだけなんだ。
そのことについて、沙奈子と話をする。
「僕は、沙奈子を一人の人間として扱うことを心掛けてるつもりなんだけど、できてると思う?」
そんな僕の問い掛けに、彼女は、少し首をかしげて、
「…よく…分からない……」
って。でもその上で、
「だけど、お父さんと一緒にいるのは嫌だって思ったりしない……。お父さんのことは好き……。学校だと、『親と一緒にいるのは嫌』って言ってる子はたくさんいる。でも、私はお父さんと一緒にいたいって思う……」
と応えてくれた。
それが、僕に気を遣ってるだけじゃないのは分かる。沙奈子は今でも、僕を避けようとはしてない。膝には座ってこなくなったけど、だからって避けてるってわけでもないんだ。少なくとも嫌われてるわけでじゃないのは分かる。それが嬉しい。
ここで、
『せっかく一人の人間として扱ってやってるのに『分からない』ってなんだ!』
とか言う親もいるかもしれないけど、僕はそういうのは嫌なんだ。




