千七百三十四 玲緒奈編 「お互い様って思えるよ」
三月二十七日。土曜日。晴れ。
自分が赤ん坊だった時、散々、たくさんの人に迷惑を掛けてきたはずなんだ。
それなのに、自分は、『迷惑を掛けられたくない』って言うの?。
どうして自分だけが他人に迷惑を掛けても許されて、他人が自分に迷惑を掛けるのは許さないなんて考えられるの?。
それについて、玲那が言ってた。
「いや~、『自分は赤ん坊の頃、手のかからない子供だった!』とか言うつもりかもしれないけど、じゃあ、なんで、今、ネットとかで他人が不快になるような言動を垂れ流して他人に迷惑を掛けてんの?。『他人に不快な思いをさせる』だけでも迷惑なんでしょ?。だったら、ネットで他人を不快にさせるようなことそしてたらそれは『他人に迷惑を掛けてる』以外のなんだって言うのさ?。
私は、マジで死ぬほど迷惑掛けたからね。だから余所の家庭の子供にちょっとばかり迷惑掛けられる程度ならどうこう言わないようにしなきゃって思ってる」
って。
絵里奈も、
「そうなんだよね。玲緒奈も、泣く時はすごい声で泣いたりするから、近所に響いてると思う。それについては申し訳なく思ってるから、他の家の生活音とかが響いてくる程度のことなら、気にしないでおこうと思ってる」
と応えた。
「確かに。犬の鳴き声とか、結構聞こえてきたりするよね。あと、壁とか床とかを、時々、どん!って叩いてるか蹴ってるかしてる人もいる。玲緒奈の泣き声で迷惑掛けてるかもと思うと、そういうのもお互い様って思えるよ」
僕がそう応えたように、近所で小型犬を飼ってるらしいお宅があるんだけど、たまに、一時間くらい吠えっぱなしの時があったりする。
また別の家の人は、何か苛々することがあったりしたら壁とか床とかを叩いたり蹴ったりしてるらしくて、ほとんど毎日、一回か二回、響いてくるんだ。それは、玲緒奈の泣き声とか犬の鳴き声とかに苛立ってってわけじゃないみたいで、全然関係ないタイミングで。割と夜中だったりするから、「ネットとか見て苛立ってんのかね~」と玲那は推測してた。
そういうことも、ある。その上で、玲那は言ったんだ。
「ああでも、<犯罪>は別だよ?。他人の物を盗んだり壊したりとかいうのは、さすがにスルーできない。イジメとかもそう。沙奈子ちゃんや玲緒奈がイジメられたら、法的な手段だって厭わない。千早ちゃんの場合は、早々に解決したから私がどうこうするまでもなかったんだけどさ。
それ考えると、やっぱ、早い段階でちゃんと対処するってのが結局は一番傷が浅くて済むって思うよ。面倒臭いからイジメだと思いたくないからって放っておいて深刻な状況になってから動いたんじゃ、そりゃ被害者の恨みだって強くなるじゃん。そういうことだと思う」




