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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千七百三十一 玲緒奈編 「疑問を抱くことを」

三月二十四日。水曜日。晴れ。




『厳しい環境に育つ方が強くなる』


それをただの『俗説』だと僕が感じる根拠は、まだある。だって、今よりずっと厳しい環境だった時代の方が犯罪発生率が高かったっていうこと。


しかも、その頃は、『虐待』なんかについての理解も進んでなかっただろうから、認知されてない事件も多かったはずだよね。


だとしたら、実際の事件の件数は、もっとずっと多かったんじゃないのかな。


『虐待』なんて、結局、甘えでしかないと僕は思う。『強い人』がどうしてそんな甘えたことをするの?。


昔の人は、なるほど体力的には強かったかもしれない。他人を傷付けることについても躊躇はなかったかもしれない。でも僕はそれを『強い』ということだとは思わない。


沙奈子と一緒に暮らすようになるまでの僕は、心を殺して淡々と仕事をこなしてた。同僚が次々と辞めていく中で、数少ない古株になるくらいに耐えられてたけど、僕にはそれが『強さ』だと思えない。


昔はそういうのを『強い』と言ってたのかもしれないけど、他人を傷付けられることを『強さ』だと言っていたのかもしれないけど、僕にはそんな風には思えないんだ。


家族が誰かを傷付けようとしてるのを黙って見てるようなのは、『強い人』のすることじゃないと僕は思う。


他人の攻撃から自分の家族を守ることも大事かもしれないけど、それ以上に、自分の家族が誰かを傷付けようとしてるのを止められることが大事なんじゃないの?。そうすれば、そもそも、事件は起こらないよね?。


『事件が起こる』っていうのは、つまり、自分の家族が事件を起こそうとしてるのを手をこまねいて見てた人がいたってことだよね?。


玲那が事件を起こしてしまったのは、僕の『弱さ』だと思ってる。あの時、玲那に、


『行かなくていい!』


と言えなかった僕の。


玲那の過去を知っていながら、


『過去に何があったとしても、実の母親の葬式にくらいは顔を出した方がいい』


っていう『常識』を疑う勇気を持てなかった僕と絵里奈の『弱さ』が招いたことだと思うんだ。


もちろん、玲那がそんな事件を起こすとはあの時は思っていなかったというのもある。彼女は、好んで誰かを傷付けようとするような子じゃないことは分かってた。


でも、だからってそれを言い訳にして『自分は悪くない!』と泣き言を並べるのが強さだとでも言うの?。


他人を傷付けて不幸を生み出さないように踏みとどまることは『強さ』じゃないの?。


僕の言ってることを『綺麗事だ!』と言う人は、自分の家族が誰かを傷付けようとしてるのを『黙って見てろ』って言うの?。


自分より確実に弱い相手に暴力をふるう『虐待』に疑問を抱かなかった人たちを、疑問を抱くことを避けていた人たちを、『強い』だなんて、僕は思わないよ。



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