千七百二十六 玲緒奈編 「対応の難しい事例」
三月十九日。金曜日。晴れ。
今日は、沙奈子の学校で修了式がある。二年生がこれで終わり、来月からは三年生だ。
しかも、学校が再開される目途は立っていない。
三年生になっても学校には通えないってことになりそうだ。
それを残念には思いながらも、『まあ、勉強なら家でもできるしね』とも思う。実際、沙奈子や千早ちゃんや大希くんは、勉強については遅れてるどころかすでに中学生の範囲は終えていて、今は、それぞれが苦手としてる教科を、じっくり丁寧に、焦ることなくちょっとずつ勉強してる状態だった。
苦手な教科を無理に詰め込もうとしても、それでテストの点数は増やせても、理解ができてなければ知らないのと同じだと僕も思う。だから、苦手な教科を得意な教科で補うことで成績は底上げしつつ、苦手な教科を苦手なままにしておかない努力もしてるところなんだ。結果として苦手を克服できなかったとしても、だからって努力しなくていい理由にはならないと思うしね。
その一方で、苦手意識をさらに強くしてしまわないようにも気を付けてるそうだ。
これは、星谷さんの方針でもある。
最近は忙しくて勉強を見てくれる機会も減ったそうだけど、これまでずっと丁寧に見てくれてたことで、習慣として身に付いてるって。特に沙奈子は、千早ちゃんと大希くんに教える立場にもなってて。
これについて千早ちゃんは、
「いや~、沙奈がいてくれて本当に助かってる。沙奈はこっちができなくてもガミガミ言わないしさ。分かるまで丁寧に教えてくれるんだよ。沙奈、もしかしたら学校の先生とかにも向いてるんじゃないかな?」
とも言ってくれてた。でもそれに対して玲那が、
「いや~、どうだろ。沙奈子ちゃんは確かに丁寧だけど、学校ってなったら三十人とか四十人とかを一度に相手するんだよ?。それをまとめ上げるには『カリスマ性』とまでは言わないにしても、『大人数を引っ張っていく力』みたいなのが必要だと思うんだ。そういう意味じゃ、むしろ千早の方が向いてんじゃないかな?」
って。だけど千早ちゃんは、
「げ~っ!。それはカンベン!。自分のクラスとか思い出しても、あんなの相手にするとかゾッとするよ。ブチ切れて殴ってしまいそう」
何か具体的に思い当たることがあるのか、ぶんぶんと頭を横に振って応えて。
基本的には『学級崩壊』みたいなこともなくて荒れてるわけでもない学校だけど、だからって『何も問題がない』っていうわけでもなさそうだ。実際、結人くんだって、本人は荒れてるわけじゃないとしても、雑に扱っていいタイプじゃないから、慎重に対応してるとは聞いてる。
何しろ、
『実の母親に殺されかけた挙句その実の母親は失踪して、親族でもない女性に養育されてる』
っていう、普通に考えても『対応の難しい事例』だからね。




