千七百二十四 玲緒奈編 「そういうのは家庭に問題が」
三月十七日、水曜日。晴れ。
もうすぐ玲緒奈も生後六ヶ月。そろそろ免疫もしっかりしつつある時期だろうから、外出もしていきたいなと思ってた。
思ってたんだけど、『新型コロナウイルス感染症』の件もあり、買い物とかに連れていくのは憚られた。せいぜい、ベビーカーに乗せて近所を散歩するくらいかな。『公園デビュー』というのも考えてたけど、当面は延期することになりそうだ。
とは言え、『公園デビュー』とかについてもいろいろ話は聞くし、それ自体に不安がないわけでもなかった。ママ友とかのグループに入れなくてもそんなのは気にしないとしても、変に疎まれたりするのは望まない。
そんな僕の心配事なんて関係なく、玲緒奈はもう完全に首がすわったみたいだ。しかも、うつぶせの状態から自分の腕の力で上体を起こして頭を持ち上げることもできるようになった。
「玲緒奈、すごいすごい♡」
自力で寝返りをうってうつぶせになって腕で上体を起こして頭を持ち上げて『どやぁ!』みたいな表情をする玲緒奈に絵里奈が満面の笑顔で拍手する。それが玲緒奈自身嬉しいみたいで、自分でまた仰向けになってから寝返ってうつ伏せになり上体を起こし頭を持ち上げるというのを、何度も繰り返すんだ。
そうだ。玲緒奈は間違いなく、僕たちの喜ぶ顔を見るために意図的にそれを行ってるんだ。この子には、ちゃんと、『意志』がある。まだまだ言葉は話せないし、複雑なことは理解できてないとしても、『意志』と『気持ち』はしっかりと持ってるんだ。それを蔑ろにできるとか、僕には意味が分からない。どうしてそんなことができるのか。
玲那が言うんだ。
「世の中にはさ、『家庭に問題があってもほとんどは事件とか起こさない。まともに育つ。だから事件を起こすような奴は甘えてるだけだ!』とか言うのがいるけど、私はそんなの嘘だと思う。てか、『まとも』って、なに?。なにをもって『まとも』って言ってんの?。事件さえ起こさなきゃ『まとも』なの?。誰かをイジメててもパワハラで心を病むまでいびってても、それが『事件』として扱われなきゃ『まとも』だってこと?。そんなわけないじゃん。
事件にまではなってなくてもまともじゃない輩っていくらでもいるじゃん。そういうのは家庭に問題があったからそうなったんじゃないの?。
だいたいさ、『事件さえ起こさなきゃまとも』って理屈だと致命的におかしい話があるんだよ。『イジメは、イジメられる側にも原因がある』ってやつ。おかしいじゃん。『事件さえ起こさなきゃまとも』だってんなら、事件を起こしてないならイジメ被害者も『まとも』ってことじゃん。そんな『まともな人』になんで『イジメられる原因』があんの?」
言われてみれば確かにそうだと僕も思う。




