千七百二十一 玲緒奈編 「そんな風にならずに済む環境を」
三月十四日。日曜日。晴れ。
『自分が気に入らないから』
とか、
『ムカついたから』
とか、そんなことで、しかも自分が直接被害を受けたわけでもないことで、仕事を奪おうとしたり、社会的に抹殺しようとしたりで、他人の人生そのものまで滅茶苦茶にしようとする人が、直接、『気に入らないこと』『ムカつくこと』をされたら何をするのか、そしてその『何』を正当化できる言い訳を与えられたらどうなってしまうのか、僕は怖いよ。
昨夜も、玲緒奈が寝返りをうってそのまま窒息なんてことがないか心配でぐっすりと寝られなかった。だから、正直、寝不足で辛いというのはある。
もちろん、絵里奈や玲那に任せてしまっても良かったのかもしれないけど、二人には、基本的に、昼間、注意してもらってるんだ。二人とも、わりと睡眠が深いらしくてすぐに起きられないそうで。
僕は臆病な性分だからか、何か気配があるとすぐに眠りが浅くなる性質だというのもあって、夜を担当してる感じかな。
それでも、寝不足が辛いのは事実。
この話を聞いて、玲緒奈や、僕に押し付ける形になってる絵里奈や玲那に対して悪感情を抱く人たちが実際に僕と同じ状況になったら、その悪感情をぶつけずにいられるのかなって。
ましてや、『子供を躾ける』『嫁を躾ける』なんて言い訳を与えられたらって、考えるんだ。
実際に被害を受けたわけでもない他人の人生さえ滅茶苦茶にしようと考えられる人が、実際に『被害』を受けたら……?。
『その程度の分別くらい付けられる!』
って言うかもしれないけど、実際に被害を受けてもいないことで他人の人生を滅茶苦茶にしようなんて考えのどこに『分別』があるの?。
それどころか、『死ぬまで追い詰めよう』と考える人が何をするのか……。
怖いよ。すごく怖い。
そして、何より、どうしてそんな考え方をするようになったのか、それが怖い。
親の影響?。それとも、自分でそうなったの?。玲那を死ぬまで追い詰めようとしてた人たちは、自ら望んでそんな人間になったの?。
『死んだ方がマシだ!』と思ってしまうどころか、心まで壊されて死を望むことさえできないくらいの境遇にあった玲那に、平然と『死ねよ!』と言えるような人間に、自分で望んでなったって言うの?。
僕は、沙奈子や玲那や玲緒奈にそんな人になってほしくないよ。
なってほしくないから、そんな風にならずに済む環境を作ろうとしてるんだ。他人を痛め付けることで憂さを晴らす必要のない環境を、自分が受けたストレスを転嫁せずに済む環境を。




