千七百十四 玲緒奈編 「自分の行いを正当化するために」
三月七日。日曜日。晴れ。
そうだね。ドラマでもアニメでも漫画でも小説でも、『イジメ加害者』というのは、『悪役』や『憎まれ役』や『主人公の引き立て役』として描かれることが多い。だから、『イジメ加害者になる』ということは、自分から『悪役』になろうとしてるってことだと思う。
だからこそ、わざわざ自分から悪役になりにいこうという心理が僕には理解できない。
でも、もし、そこに『悪意がない』としたら?。『イジメ加害者』としてじゃなく、
『自分こそが正しいことをしてる』
『自分こそが『主人公側』だ』
と思ってるんだとしたら?。
なるほど、そう考えれば、
『イジメられる側にも原因がある』
って言い出すのも分かるかな。自分たち側こそが『正義』であるためには、『主人公側』であるためには、
『イジメられてる側こそが悪』
でないといけないからね。
でも僕には、そんなの、詭弁としか思えない。
『自分の行いを正当化するために他人の所為にしようとしてる』
としか思えないんだ。そんなことで『犯罪』を正当化しようなんて、卑怯者の理屈だよ。
もし、沙奈子や玲緒奈が、誰かをイジメてて、それでそんなことを言ってたら、悲しいよ。
玲那は、事件を起こしてしまった自分を、被害者である実の父親の所為にして自分の罪を逃れようとはしなかった。『原因』は確かに実の父親の側にあったとしても、だからって自分の『犯罪』が正当化されるわけじゃないと分かっていたんだ。
僕は、そんな玲那を誇らしいと思う。
それについて、玲那自身も言ってた。
「私が、自分のやったことを正当化せずにいられたのは、一にも二にも、パパちゃんや絵里奈や沙奈子ちゃんがいてくれたからだよ。私が自分の罪を認めたってみんなが私を見捨てないって思えたからこそ、逆に素直に罪を認めて償った方がきっといい方向にいくって思えたから、認められたんだ。それがなきゃ、たぶん、カナのお兄さんみたいにいつまでも自分の罪を認めずに裁判を続けてたかもしれない。
やっぱさ、誰だって、『自分が悪かった』ってのを認めたくはないものだと思うんだ。だからイジメ加害者だって、『イジメられる側にも原因がある』って言って、自分を正当化したいんだろうね。悪役にはなりたくないからさ
だけど、どんなに言い訳並べたって『イジメは犯罪』なんだ。暴行とか脅迫とか強要とか窃盗とか器物損壊が犯罪じゃなきゃ、なんだって言うんだよ?。そこまで行ってなきゃ、千早が沙奈子ちゃんにきつく当たった時みたいに『イジメの疑い案件』で済むかもだけど、暴行とか脅迫とか強要とか窃盗とか器物損壊とかまで行ったら、千早だって『犯罪者』になってた。
学校がすぐに対処してくれたのは、沙奈子ちゃんを守るためでもあったけど、千早を犯罪者にしないためでもあったんだよね。
そうやって深刻な事態になる前に対処してもらえたから、千早も反省しやすかったっていうのもあると思う。引くに引けないところにまで行ってからじゃ、それこそ『罪』が大きくなっちゃって、背負いきれないだろうしさ」




