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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百七十一 玲那編 「それぞれ」

イルカを可愛いとか好きだっていうのは別に普通だと思う。だけど沙奈子は、それと同時に、ちょっと変わった生き物が好きだっていうのが分かってきた。ウミヘビみたいな生き物(沙奈子の反応とそれを見た知らない女の人の反応に僕も驚いてしまって名前を見てなくて何ていう名前か分からない)だけじゃなく、川の生き物のコーナーにいた大きなオオサンショウウオを見た時にも、


「かわいい~!」


って声を上げたんだ。そうか、沙奈子はこういうのも可愛いって感じるんだ。それから見てた後も、普通はあまり可愛いとは言われなさそうな生き物に対しても、彼女は「かわいい」と呟いた。ちょっとグロテスクな感じのチョウチンアンコウも、沙奈子に言わせると可愛いらしい。しかもそれは、玲那も同じだった。玲那も、ちょっとグロテスクな感じの生き物を見ると「可愛い」と言っていた。


最初は驚いた僕も、しばらく二人の様子を見てると、沙奈子と玲那の感性が近いものだっていうのが分かってきた。何だか面白いと思った。だからこんなに気が合うんだなっていうのも感じた。


絵里奈も、二人程も可愛いとか言って興奮したりしないけど、グロテスクな感じなのも結構平気らしかった。本当に面白いな。そういう点でも、僕たちは家族っぽいのかもしれないって気がした。


ああでも、来てよかった。急に言われた時はどうしようと思ったりしたのも、こうなってみれば玲那が正解だったって思える。今まで知らなかった沙奈子の一面が見られたんだから。


ただもし、今後、沙奈子が家で爬虫類とか飼いたいとか言い出したらどうしよう?。犬とか猫よりは手間はかからない気もしつつ、やっぱり家にそういうのがいると、僕は落ち着けないかもしれない。気になってしまって。でも沙奈子が飼いたいって言うなら、仕方ないかなと思ったりもする。


しばらく見て回って、水族館の中にあったパン屋で、僕は亀、沙奈子はイルカ、玲那はオオサンショウウオ、絵里奈はアザラシの形をしたパンを買った。沙奈子と玲那は、


「かわいくて食べられな~い」


とか騒いでたけど、散々迷って結局食べた。


「おいしい!」


って、笑顔になった。


それからペンギンとかアザラシも見て、グッズショップでイルカとオオサンショウウオのぬいぐるみを買った後で、もう一度イルカのショーを見て帰ることになった。


帰りも念の為に酔い止めの薬を飲んでもらったけど、すごくテンションが高い感じでぬいぐるみを抱いて玲那とずっとおしゃべりをしてて、バスに乗ってることも忘れてる感じだった。


家に着くと、ぬいぐるみは取り敢えず机の上に人形たちと一緒に並べて置いて、沙奈子はさっそく日記を書いた。もちろん水族館に行ったことだった。いつもよりたくさん書いてた。


『今日は、お父さんとお母さんとれいなおねえちゃんと私とで水ぞくかんへ行きました。さいしょにイルカさんを見ました。イルカさんのジャンプはすごく高くてびっくりしました。ボールとかとばすのもすごくじょうずですごいと思いました。イルカさんのあとは、ヘビさんとかおおさんしょううおさんとか見ました。かわいかったです。ちょうちんあんこうさんもかわいかったです。水ぞくかんのパンやさんでイルカさんのパンをかいました。かわいそうでたべられないと思いましたけど、たべたらすごくおいしかったです。ペンギンさんとアザラシさんもオットセイさんもかわいかったです』


という感じの内容だった。本当に楽しかったのが伝わって来るようだと思った。それから勉強もした。ちゃんと忘れずにするんだな。


買い物は、昨日、荷物が多くなるからと僕の自転車も持っていったとおり、必要なものは一通り買っておいたから今日はもう行く必要はない。絵里奈と沙奈子が夕食の用意を始めた。鶏肉の水炊きだった。実は昨日、うちのコンロが一口しかないっていうことで、カセットコンロも買ってきてたんだった。それがさっそく役に立った。


そう言えば本当ならお昼にホットケーキを作るところだったけど、木曜日にも作ったところだったから今回はいいのかな。


コタツに入って四人で囲むお鍋は、本当に美味しかった。味もそうだし、みんなで鍋をつつくっていうのがこんなに楽しいことだって知らなかった。もちろんそれは、この四人だからだっていうのは分かった。


夕食の後片付けをした後は、当然お風呂だ。今日も沙奈子は絵里奈と入った。明日からはまたしばらく二人きりになる。しっかり甘えてくれればいいと思った。と思ったら、玲那もまた僕の膝に座ってきた。


「お父さん…」


甘えるような声を出して、僕にもたれかかった。それでいいって思えた。だけど昨日みたいなことはなく、普通に順番にお風呂に入った。


お風呂の後は服作りだ。なかなかハードスケジュールだなと思ったけど、沙奈子はまだ元気だった。テンションが高いままなのかもしれない。それでもさすがに9時を過ぎた頃、沙奈子が大きなあくびをした。やっぱり疲れたんだと思った。


玲那や絵里奈には当然早すぎる時間でも、沙奈子の生活パターンに合わせてもらわないと困るからね。今日のところはこれで寝ることにしよう。というわけで、9時半にはみんなで布団に入った。


沙奈子は、当たり前みたいに絵里奈の胸に顔をうずめてた。玲那は僕にくっついてた。すぐに寝息を立て始めた沙奈子に、僕たちは思わず顔を合わせて笑顔になった。


それから僕たちも、思ったよりもスッと眠りにつけた。それなりに疲れてたんだろうな。するとまた、何かの気配に僕は目を覚ました。もしかしたらと思ってみたら、また沙奈子が絵里奈のおっぱいを吸ってるのが分かった。ああ、夢じゃなかったんだなって思った。でもまあいいや。絵里奈も嫌がってないし。それどころか本当に嬉しそうにしてる感じだったし。これで沙奈子も、お母さんを取り戻せたってことなんじゃないかな。




翌日、月曜日。絵里奈はやっぱり僕よりずっと早く起きてた。カセットコンロも使って味噌汁も作りつつ、今日はタラの西京焼きだった。玲那も起きて化粧とかしてた。女の人は大変だなと思った。


僕も起きて小声で「おはよう」と挨拶を交わして、朝食の用意を手伝った。


しばらくすると、沙奈子も、もそもそと起き出した。さすがに気配に気付いたんだな。


「おはよう」


僕たちは一緒に沙奈子にそう言った。沙奈子が嬉しそうに、


「おはよう」


って返してくれた。


みんなで朝食を食べて、仕事と学校の用意をして、後は時間が来るまで待つだけだってなった時、絵里奈が言った。


「沙奈子ちゃん、私は今日、志緒里しおりを迎えに一旦帰ってくるね。それから金曜日にまた帰ってくるから」


その言葉に沙奈子は大きく頷いて、


「うん、待ってる」


とはっきりと応えた。その時の姿が何だかちょっと大きくなったように見えた気がした。お母さんを取り戻せたことで気持ちの余裕が出来たのかもしれないと感じたのだった。


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