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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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千七百四 玲緒奈編 「いかに危ういことなのかが」

二月二十五日。木曜日。晴れ。




今日で学校での『総括テスト』も終わり。お昼には帰ってきた沙奈子に、「どうだった?」って聞くと、「まあまあだった」って。彼女がそう言うのは『いつもどおり問題なかった』っていう意味だから、安心だ。普段の様子から見ても、勉強については何も心配はしてないけどね。


それよりも気になるのは、先日、体調を崩してからしばらく僕の膝に座ってたのが、最近はまた、座らなくなってきたことだった。沙奈子自身の様子を見る限りだと大丈夫そうなものの、『我慢してるだけなんじゃないかな』っていうのも頭がよぎってしまう。


そこで、千早ちはやちゃんと大希ひろきくんが来て三階で過ごしてる間に、お母さんを亡くしてずっと山仁やまひとさんの膝に座ってたっていうイチコさんに、ビデオ通話で話を聞いてみた。


大学の講義も終わって進級も決まって、朝から『SANA』に出勤してくれてるんだ。そのイチコさんは言う。


「私は、高校に合格して入学する少し前に、お父さんの膝には座らなくなったからね。だから、山下さんや絵里奈さんや玲那さんがいる沙奈子ちゃんも、焦らなくてもいつかはその必要がなくなると思う。


私の場合は、『お母さんを亡くした』っていう事情があってそこまでかかったかもしれないけど、沙奈子ちゃんの事情も、私のより軽いとは言えないんじゃないかな。ううん、それどころか、もっとヘビーかもしれない。


だって、私は生まれてからお母さんが亡くなるまで愛してもらえてた実感があったのに、沙奈子ちゃんの場合は、生まれてからずっとそれがなかったんでしょ?。もう、想像するだけで頭がおかしくなりそうだよ。


だから、私よりもっと時間がかかってもおかしくないと思うんだ。


ヒロ坊は、四年生になる前にはお父さんの膝に座らなくなってたけど、それは多分、あの子がまだ小さかったからお母さんのことをあまりよく覚えていないっていうのもあったんじゃないのかな。


こんな風に、私とヒロ坊とでも違うんだから、みんな一緒だっていうのが逆におかしいって気がする。違うのが普通なんだって、お父さんも言ってたよ」


イチコさんの話し方は、社会人として考えたらおかしいかもしれないとしても、そこには、他人を馬鹿にしたり嘲ったり見下したり貶めようとする意図はなかった。ただ誠実に自分の思ってることを表現してくれてただけだった。いくら社会人としての体裁を整えていても、他人を平気で傷付けられるような人には決してないものがあった。


『相手を敬い慈しむ気持ち』


が。


山仁さんから受け継いだものが、イチコさんの中には確かにある。


沙奈子や玲那や玲緒奈れおなを育てる上でのヒントがそこにはある気がするんだ。


「ありがとう。そう言ってもらえたら気が楽になったよ」


正直な気持ちを伝えさせてもらった。


沙奈子のおねしょの時には山仁さんにお世話になり、沙奈子がいつまで僕の膝を必要としているかの話では、こうしてイチコさんのお世話になる。


誰かの助けを得ることで人間は生きているんだって実感する。


それを思えば、自分以外の人を疎かにするのがいかに危ういことなのかが、分かるんじゃないかな。



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