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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百七十 玲那編 「水族館」

あれは、現実だったのかな…?。それとも夢だったのかな…?。


日曜日の朝、僕は、絵里奈が作ってくれた朝食を、みんなで一緒に食べながらぼんやりとそんなことを思っていた。昨夜の、沙奈子が絵里奈のおっぱいを飲もうとしていたことについてだった。


沙奈子は何も言わなかったし、いつもと変わった様子もまったくなかった。寝ぼけてて夢の中でお母さんのおっぱいを飲んでたつもりだったんだとしたら、気にするどころか覚えてなくても当たり前だと思う。だからそれは別に構わない。


ただ、絵里奈も何も言わなかったし、起きて「おはよう」と挨拶した時も特に変わった様子もなかった。あの時、絵里奈も寝ぼけてる感じだったから、もし現実だったとしても絵里奈自身が夢だったと思ってるかも知れない。それにまあ、絵里奈が現実だと認識してたとしても、僕に報告しなきゃいけないことでもないから何も言わなくても当然なのかもしれないのか。玲那は…、それこそ全然関係ないよな。


それにしても驚いた。でも、沙奈子がああしてお母さんのおっぱいを吸いたいと思う程に甘えたい気持ちがあったとしても、普通のことなのかもしれないとも思った。だって、まだまだ甘えたくて甘えたくて仕方なかった頃からそうさせてもらえなかったんだろうから。沙奈子が僕に甘えてくれるのだって、膝に座りたがるのだって、お風呂に一緒に入りたがるのだって、きっとそういうことなんだろうと思う。ずっと満たされなかったものがすぐ手に届くところに来たとなったら、そうなってしまうのも不思議じゃない気もする。


玲那が僕に甘えてくるのもそれだもんな。僕を父親だと思って、今まで諦めてきたものを取り戻そうとしてるんだから、沙奈子も同じなんだろう。


だったら、もうそれでいいって思える。沙奈子が満たされるまで、僕たちがそれを提供してあげればいいよな。絵里奈も嫌がってる感じじゃなかったし。それどころか、本当に赤ちゃんにおっぱいをあげてるお母さんみたいに見えたし。


もしあれが現実だったとすればだけど。


僕のそんなあれこれとは関係なく、沙奈子と玲那と絵里奈は今日も朝から笑顔だった。それを見てられるなら、それが何より。


今日の朝食の、鮭ときのこのホイル焼きをしっかりいただいて、さてまたみんなで手分けして掃除と洗濯と、だね。


やっぱり掃除はすぐに終わるけど、洗濯は何回もすることになって、みんなで干すのを手伝った。こうやって家事そのものもアトラクションにできたら、みんなでやるのも楽しくていいなあ。その後は沙奈子の朝の勉強。3年生の漢字に突入して、5年生になるまでには何とか追いつけそうな感じになってきた。だけど慌てない。急がない。ちゃんと覚えられたのを確認してから先に進もう。


沙奈子も、絵里奈と玲那が見ててくれるから張り切ってる感じだ。時々、玲那が歌うみたいに漢字を読み上げてくれたりして、すごく楽しそうに勉強してる。僕もこういう風に勉強できてたら、もっと好きになれてたかな。僕にとって勉強は、早く家を出て行くための手段みたいになってたからか、楽しいと思ったことなんて全然なかった気がする。同じ時間を使うなら、こういう風にやれてた方が楽しかっただろうな。


なんて過ぎたことを悔やんでも仕方ない。今は沙奈子が楽しめればそれでいいんだ。


10時くらいには勉強が終わって、さて、お昼までどうやって時間を潰そう。と思ったら、玲那が急に、


「ねえ、みんなで水族館に行かない?」


って言い出した。え、でも、そんな思い付きで…。って戸惑ってる僕を尻目に、沙奈子はパッて明るい顔をして、「行きたい!」って言った。う~ん、そうか、沙奈子が行きたいんならいいよな。ということで、みんなで水族館に行くことになった。


その水族館は、内陸型の水族館としては西日本でも有数の規模を誇ってて、今でも人気らしい。駅前から出てるバスなら直接行けるから、割と気軽に行こうと思えば行けるところだった。沙奈子には酔い止めの薬を飲んでもらって、駅前まで行ってそこからバスに乗った。


それから20分ほどで水族館に着いた。ああでも、さすがに人が多いなあ。僕も沙奈子もあまり人混みは好きじゃないけど、沙奈子は何だか楽しそうだった。バスの中でも絵里奈にずっとくっついてニコニコだった。玲那も僕にくっついてニコニコだった。


入場してまず、イルカショーがあるということでそちらに行くことにした。


「イルカさん!?。見たい!!」


沙奈子がそう声をあげて目をキラキラさせてた。やっぱりイルカが好きなんだなって思った。スタジアムの方に行くと、まだショーの時間までは30分以上あるのに前の方の席は埋まってた。少し離れたところになってしまったのは残念でも、沙奈子は興奮気味だった。


玲那がドリンクとハンガーガーを買ってきてくれて、それを食べながら待った。


「ショーが終わってから行くと、すごく混みますからね」


って玲那が言った。なるほど、何回も来てるんだって分かった。だから急に思いついたみたいに来れるんだ。


周りを見まわすと、沙奈子と同じくらいの年齢の子もたくさんいた。当然、殆どの子が家族連れだった。僕たちもそう見えるのかな。そんなことを思った。


ショーが始まる時間が来て、イルカの姿が見えると、沙奈子が「イルカさーん!」って声を上げた。ちょっと驚いた。まさかそこまでとは思ってなかった。玲那も一緒に声を上げてた。それまでは絵里奈にべったりだった沙奈子が、玲那と一緒に身を乗り出してイルカのショーを見てた。そんな二人の様子に、僕と絵里奈は顔を合わせて思わず笑顔になってしまった。何だかそれが、本当に娘たちがイルカに夢中なのを目を細めながら見てる両親みたいだって思った。


沙奈子と玲那は終始興奮気味で、「わー!」とか「すごーい!」とか声を出してた。その様子がまた可愛くて、頬が緩んでしまった。絵里奈も顔が緩みっぱなしだった。


「イルカさん、すごかったね!」


ショーが終わって、沙奈子が興奮冷めやらぬって感じでそう言った。「すごかったね」って僕たちも応えてた。それからも玲那とイルカの話が止まらない感じの沙奈子を連れて、他の展示を見るために移動した。すると今度はそっちに夢中になり、熱心に観察してた。でもこの時、僕は沙奈子のさらに意外な一面に気付かされたのだった。


それは、ウミヘビみたいな生き物を見た時だった。他の小学生くらいの女の子たちは「ヘビだ」とか、「気持ち悪い」とか言って遠巻きに見てる感じだったのに、沙奈子はそれを見るなり、


「かわいい!」


と小さく叫んでた。それを聞いた、僕たちの隣にいた全然知らない女の人が、


「か、かわいい…?」


って思わず声に出して驚いてた。そう、沙奈子は、他の子とはちょっと違った感性を持ってるみたいだったんだ。


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