千六百九十五 玲緒奈編 「必死に助けを求めてるのに」
二月十六日。火曜日。晴れ。
昨日と今日はなんだかすごく暖かかった気がする.
換気のために窓を少し開けていても そんなに温度が下がらなかった。なんだかホッとする。このまま暖かくなってくれればいいんだけど、それは期待薄かな。
ところで昨日、僕が会社に行ってる間、絵里奈も玲緒奈となんとか上手く過ごせたそうだ。ぐずっても開き直っておろおろせずに丁寧に接するように心掛けていたことで、玲緒奈も安心できたのかもね。
玲那も言ってた。
「山仁さんの作品の中で主人公が言ってたんだけど、『赤ん坊が泣くのって、助けを求めてのことなんじゃないかって思う』って。だってほら、赤ん坊って、やっぱ、弱いじゃん。ちょっと飢えただけで死んじゃうことだってあるって言うし。だから赤ん坊にとっておなかが減ったり何か不快なことがあるのって。いわば『命の危機』なんだよ。ということは、赤ん坊の泣き声は、『助けて!』っていう意味なんじゃないかな。そう考えたら、赤ん坊が泣いてるのをほったらかしにするのって、本人が必死に助けを求めてるのを無視するってことなんじゃないの?。必死に助けを求めてるのに無視されたら、どう思う?」
って。
なるほど確かに、玲緒奈を見ててもそう感じる。『パパじゃないと嫌なんじゃ~っ!』的に解釈してたけど、お風呂に入れる時にしっかりと安定させられないから不安だったんだとしたら、それは玲緒奈にとっては『死の恐怖』だったわけで、助けを求めて泣くのは当然だよね。
それを、絵里奈が、彼女の訴えに丁寧に耳を傾ける姿勢を見せてたことで、玲緒奈にも伝わったのかもしれない。
一回や二回、そうしただけじゃ伝わらないのは当然でも、伝わるまで続けたことで、玲緒奈の信頼を勝ち得たのかもね。
それが事実かどうかはともかく、絵里奈がミルクをあげてもあまり泣かなくなってきたのも確かなんだ。
加えて、玲緒奈は、こちらが言ってることをいくらかは理解してるみたいな様子も見せ始めてる気がする。
「玲緒奈~♡」
って声を掛けると、こっちを見て、嬉しそうに手足をばたつかせて笑ったりするんだ。
赤ん坊は、こうやって、すごい勢いでいろんなことを学び取ってる。だから、一回や二回では分かってくれなくても、話し掛けるだけ無駄だと断じてしまうのは違うんじゃないかな。
『伝わらない』じゃなくて、『伝わるまで伝え続ける』のが大事なんだって実感する。
昨日までは伝わらなかったことが、今日は伝わるかもしれない。今日は伝わらなかったことが、明日には伝わるかもしれない。
『諦めて投げ出してしまう親の姿』を子供に見せるのはどうなんだろうって感じるんだ。




