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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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百六十九 玲那編 「お母さんの」

お風呂に入る時の玲那は、もうすっかり堂々としたものだった。僕が見てようと見てまいと関係なくパパッと服を脱いでお風呂に入り、上がった後も平然と部屋で服を着た。僕は沙奈子を膝にして、また次の莉奈の服作りを始めたのを見てて振り返りはしなかったけど、気配だけでもそれが分かった。


玲那と交代でお風呂に入った僕は、やっぱり沙奈子と一緒に入れなかったのが少し残念だと感じてた。もうすっかり習慣になってたからなあ。でも本当はこれでいいんだよな。


その後はまた沙奈子を膝にして、服作りをしてる様子をぼんやり眺めてた。沙奈子も絵里奈も真剣に、玲那はそんな二人の様子に夢中になってるのが分かった。いいなあ。


ああでも、僕も沙奈子もあんまりテレビとか視なかったけど、玲那や絵里奈は視たい番組とかないのかな。あれば視てもらっていいんだけど、どうなんだろう。まあ、見たいんだったらそう言うか。それよりも沙奈子とこうしてるのが楽しいんだろうな。


しかしそれにしても、なんだかいい匂いがするなあ。沙奈子もなんかいい匂いしてた気はするのが、やっぱり玲那と絵里奈もいるからなのかな。


僕はそんな匂いに包まれつつ、四人で住める物件探しをしてたのだった。でもまだ、いいのは出ていない。範囲を広げれば良さそうなのもあるのに、さすがに範囲が狭すぎるのかなあ。いやいや、今の学校の校区内っていう条件は譲れない。あの学校でなきゃダメだ。あの学校だったから、沙奈子みたいな子でもうまくやってこれたんだと思う。石生蔵さんとのことだって上手くいったんだと思う。それを忘れちゃいけない。


焦らなくていい。例え何か月かかったって、これだっていうのが出てくるまで待つべきだろ。焦って妥協したらきっと後悔する。ただ条件として、あんまりお互いのプライバシーがしっかり守れなくてもひょっとして大丈夫なのかなっていうのは、こうやって一緒に生活してみて思わなくもなかった。まだ最初だからテンション上がっててっていうのはあったとしても、沙奈子が思春期になった時にある程度配慮出来たらそれでいいかなって気もしてきてる。


特に玲那の開き直りと言うか適応っぷりは、感心すらさせられる。完全に今の沙奈子と同じだよ。僕のことを男として全く見てない。本人が言う通り、『お父さん』としか思ってないな。だから絵里奈のヤキモチも、そんなに深刻じゃないみたいだし。


絵里奈にしたって、今はまだ少し恥ずかしいみたいでも、なんだかすぐに慣れてしまいそうだ。実際の夫婦とかでもこんなものなのかな。


女性としての恥じらいをなくしたらどうとかっていう話も耳にするけど、僕の場合は最初からほとんど女性として見てないからなあ。思えば、海水浴の時の二人の水着姿だって、目のやり場に困ったと言っても、実は本当に困ってた訳じゃない気がする。こういう時はそういうものだっていうのを演じようとしてただけって気がしてきた。


そんな風に女性として見ないことに機嫌を損ねる女性もいるのかもしれない。でも玲那や絵里奈はそうじゃなかった。むしろ女性として見られたくないっていう風に思ってる節がある気がする。男性が苦手とか言うのもそうだし。男性が苦手っていうのは、自分のことを女性として見てくるのが苦手ってことなのかなって思った。そんな二人にとっては、僕は本当にちょうどいい存在だったんだろうな。こういうのが役に立つ場合があるっていうのは、なんだかおもしろい。


そういうことも含めて僕たちは上手く噛み合ってるんだろうな。だから出会えたんだろうな。


気付けば、玲那もやけに僕にもたれかかってる気がする。本当は僕の膝に座りたいんだろうなっていうのが分かる気もした。でもまあそれは、さすがに沙奈子を優先にしてもらわないとね。精神的にはどうでも、一応は沙奈子よりずっとお姉さんなんだから。ただ、甘えられるときは思いっ切り甘えてくれてもいいかな。


僕にはまだ全然詳しい事情も分からない過去や闇を抱えてる玲那。僕や沙奈子と出会ってなかったら、この子もどうなってたんだろうな、なんて考えてしまう。とは言えそれでもそれなりに人生は送ってたんだろうけどさ。


絵里奈もそうだ。最初は人付き合いは玲那にお任せっていう印象だったのが、実際には絵里奈の方がお姉さんと言うかお母さん的な立場で、玲那のことを受け止めてあげてたんだな。そうやって二人で支え合って来たんだろうな。


もしこの二人がもっと特別な関係だったとしても、そんなことは僕にとっては重要じゃない。この二人にとって必要なことだったんなら、僕が口出しすることじゃない。沙奈子まで巻き込むとかってことになったらそれは認める訳にはいかなくても、別にそんなつもりもないみたいだし、別にいいよな。


本当にこの二人に出会えたことも何だか必然って自然に思える。感謝したいって素直に思えるよ。


そんなことを思ってるうちに時間は過ぎて、沙奈子がふわぁって感じで大きなあくびをした。見れば10時を過ぎてた。「そろそろ寝る?」って聞いたら眠そうに頷いたから、今日もここまでってことになった。絵里奈ももう、沙奈子のペースに合わせてくれる気になってるみたいだ。


布団を敷いたら、沙奈子がまた、おやすみなさいのキスを僕たち三人にしてくれた。僕たちも沙奈子にお返しのキスをした。その時の嬉しそうな顔がたまらなかった。


寝る位置は、昨日と同じだった。沙奈子は絵里奈の胸に顔をうずめて、玲那は僕にくっついてきてた。何だか僕の膝に座れなかった分をそこで取り戻そうとしてる感じかな。


「お母さん…」


昨日みたいに何度もじゃないけど、沙奈子がそう口にした。言いたかったんだろうなって思った。


「沙奈子ちゃん…、大好き」


絵里奈がそう応えると、もじもじと体を動かした。嬉しいんだろうなって改めて思った。しばらくすると、すー、すー、って穏やかな寝息を立て始めた。すごく安心できてるんだなっていうのも感じた。その寝息を聞きながら、僕たちも眠りについた。


だけど、何気なくふっと眠りが浅くなった時、小さく声が聞こえてきた。


「沙奈子ちゃん…、どうしたの…?」


絵里奈の声だった。何だろうと思って目を開けてみると、沙奈子がまだ、絵里奈の胸に顔をうずめて寝てた。…ん?、あれ?、でも何か変だな…?。そう思ってよく見ると、絵里奈のスウェットの上がたくし上げられて、胸が片方出てしまってた。そこに沙奈子が顔をうずめて…、いや、違う。これって、おっぱいを吸ってる…?。


そう。沙奈子が絵里奈のおっぱいに吸い付いてたのだった。でも、沙奈子自身は確かに寝てた。寝ながらおっぱいを吸ってるんだ。


そうか…、お母さんのおっぱいを飲んでる夢を見てるのか。


ぼんやりとした頭で、僕はそんなことを思っていたのだった。


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